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紅葉賀

第一章 藤壺の物語 源氏、藤壺の御前で青海波を舞う

2. 試楽の翌日、源氏藤壺と和歌を贈答

 

本文

現代語訳

 つとめて、中将君、

  「いかに御覧じけむ。世に知らぬ乱り心地ながらこそ。

 翌朝、中将の君、

  「どのように御覧になりましたでしょうか。何とも言えないつらい気持ちのままで。

  もの思ふに立ち舞ふべくもあらぬ身の

  袖うち振りし心知りきや

 つらい気持ちのまま立派に舞うことなどはとてもできそうもないわが身が

  袖を振って舞った気持ちはお分りいただけたでしょうか

 あなかしこ」

  とある御返り、目もあやなりし御さま、容貌に、見たまひ忍ばれずやありけむ、

 恐れ多いことですが」

  とあるお返事、目を奪うほどであったご様子、容貌に、お見過ごしになれなかったのであろうか、

 「唐人の袖振ることは遠けれど

  立ち居につけてあはれとは見き

 「唐の人が袖振って舞ったことは遠い昔のことですが

   その立ち居舞い姿はしみじみと拝見いたしました

 大方には」

  とあるを、限りなうめづらしう、「かやうの方さへ、たどたどしからず、ひとの朝廷まで思ほしやれる御后言葉の、かねても」と、ほほ笑まれて、持経のやうにひき広げて見ゐたまへり。

 並々のことには」

  とあるのを、この上なく珍しく、「このようなことにまで、お詳しくいらっしゃり、唐国の朝廷まで思いをはせられるお后としてのお和歌を、もう今から」と、自然とほほ笑まれて、持経のように広げてご覧になっていた。



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