第四章 明石の物語 住吉浜の邂逅
3.
源氏、惟光と住吉の神徳を感ず
本文 |
現代語訳 |
君は、夢にも知りたまはず、夜一夜、いろいろのことをせさせたまふ。まことに、神の喜びたまふべきことを、し尽くして、来し方の御願にもうち添へ、ありがたきまで、遊びののしり明かしたまふ。 惟光やうの人は、心のうちに神の御徳をあはれにめでたしと思ふ。あからさまに立ち出でたまへるに、さぶらひて、聞こえ出でたり。 |
君は、まったくご存知なく、一晩中、いろいろな神事を奉納させなさる。真実に、神がお喜びになるにちがいないことを、あらゆる限りなさって、過去の御願果たしに加えて、前例のないくらいまで、楽や舞の奉納の大騷ぎして夜をお明かしになる。 惟光などのような人は、心中に神のご神徳をしみじみとありがたく思う。ちょっと出ていらっしゃたので、お側に寄って、申し上げた。 |
「住吉の松こそものはかなしけれ 神代のことをかけて思へば」 |
「住吉の松を見るにつけ感慨無量です 昔のことがを忘れられずに思われますので」 |
げに、と思し出でて、 |
いかにもと、お思い出しになって、 |
「荒かりし波のまよひに住吉の 神をばかけて忘れやはする 験ありな」 |
「あの須磨の大嵐が荒れ狂った時に 念じた住吉の神の御神徳をどうして忘られようぞ 霊験あらたかであったな」 |
とのたまふも、いとめでたし。 |
とおっしゃるのも、たいそう素晴らしい。 |