第二章 玉鬘の物語 初夏の六条院に求婚者たち多く集まる
1. 玉鬘に恋人多く集まる
本文 |
現代語訳 |
西の対の御方は、かの踏歌の折の御対面の後は、こなたにも聞こえ交はしたまふ。深き御心もちゐや、浅くもいかにもあらむ、けしきいと労あり、なつかしき心ばへと見えて、人の心隔つべくもものしたまはぬ人ざまなれば、いづ方にも皆心寄せきこえたまへり。 |
西の対の御方は、あの踏歌の時のご対面以後は、こちらともお手紙を取り交わしなさる。深いお心用意という点では、浅いとかどうかという欠点もあるかも知れないが、態度がとてもしっかりしていて、親しみやすい性格に見えて、気のおけるようなところもおありでない性格の方なので、どの御方におかれても皆好意をお寄せ申し上げていらっしゃる。 |
聞こえたまふ人いとあまたものしたまふ。されど、大臣、おぼろけに思し定むべくもあらず、わが御心にも、すくよかに親がり果つまじき御心や添ふらむ、「父大臣にも知らせやしてまし」など、思し寄る折々もあり。 |
言い寄るお方も大勢いらっしゃる。けれども、大臣は、簡単にはお決めになれそうにもなく、ご自身でもちゃんと父親らしく通すことができないようなお気持ちもあるのだろうか、「実の父大臣にも知らせてしまおうかしら」などと、お考えになる時々もある。 |
殿の中将は、すこし気近く、御簾のもとなどにも寄りて、御応へみづからなどするも、女はつつましう思せど、さるべきほどと人びとも知りきこえたれば、中将はすくすくしくて思ひも寄らず。 |
殿の中将は、少しお側近く、御簾の側などにも寄って、お返事をご自身でなさったりするのを、女は恥ずかしくお思いになるが、しかるべきお間柄と女房たちも存じ上げているので、中将はきまじめで思いもかけない。 |
内の大殿の君たちは、この君に引かれて、よろづにけしきばみ、わびありくを、その方のあはれにはあらで、下に心苦しう、「まことの親にさも知られたてまつりにしがな」と、人知れぬ心にかけたまへれど、さやうにも漏らしきこえたまはず、ひとへにうちとけ頼みきこえたまふ心むけなど、らうたげに若やかなり。似るとはなけれど、なほ母君のけはひにいとよくおぼえて、これはかどめいたるところぞ添ひたる。 |
内の大殿の公達は、この中将の君にくっついて、何かと意中をほのめかし、切ない思いにうろうろするが、そうした恋心の気持ちでなく、内心つらく、「実の親に子供だと知って戴きたいものだ」と、人知れず思い続けていらっしゃるが、そのようにはちょっとでもお申し上げにならず、ひたすらご信頼申し上げていらっしゃる心づかいなど、かわいらしく若々しい。似ているというのではないが、やはり母君の感じにとてもよく似ていて、こちらは才気が加わっていた。 |