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第一章 玉鬘の物語 蛍の光によって姿を見られる    

4. 源氏、宮に蛍を放って玉鬘の姿を見せる     

 

本文

現代語訳

 何くれと言長き御応へ聞こえたまふこともなく、思しやすらふに、寄りたまひて、御几帳の帷子を一重うちかけたまふにあはせて、さと光るもの。紙燭をさし出でたるかとあきれたり。

 何やかやと長口舌にお返事を申し上げなさることもなく、ためらっていらっしゃるところに、お近づきになって、御几帳の帷子を一枚お上げになるのに併せて、ぱっと光るものが。紙燭を差し出したのかと驚いた。

 蛍を薄きかたに、この夕つ方いと多く包みおきて、光をつつみ隠したまへりけるを、さりげなく、とかくひきつくろふやうにて。

 螢を薄い物に、この夕方たいそうたくさん包んでおいて、光を隠していらっしゃったのを、何気なく、何かと身辺のお世話をするようにして。

 にはかにかく掲焉に光れるに、あさましくて、扇をさし隠したまへるかたはら目、いとをかしげなり。

 急にこのように明るく光ったので、驚きあきれて、扇をかざした横顔、とても美しい様子である。

 「おどろかしき光見えば、宮も覗きたまひなむ。わが女と思すばかりのおぼえに、かくまでのたまふなめり。人ざま容貌など、いとかくしも具したらむとは、え推し量りたまはじ。いとよく好きたまひぬべき心、惑はさむ」

 「驚くほどの光がさしたら、宮もきっとお覗きになるだろう。自分の娘だとお考えになるだけのことで、こうまで熱心にご求婚なさるようだ。人柄や器量など、ほんとうにこんなにまで整っているとは、さぞお思いでなかろう。夢中になってしまうに違いないお心を、悩ましてやろう」

 と、かまへありきたまふなりけり。まことのわが姫君をば、かくしも、もて騷ぎたまはじ、うたてある御心なりけり。

 と、企んであれこれなさるのだった。ほんとうの自分の娘ならば、このようなことをして、大騷ぎをなさるまいに、困ったお心であるよ。

 こと方より、やをらすべり出でて、渡りたまひぬ。

 別の戸口から、そっと抜け出て、行っておしまいになった。



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