第一章 玉鬘の物語 玉鬘、鬚黒大将と結婚
3. 玉鬘、宮仕えと結婚の新生活
本文 |
現代語訳 |
霜月になりぬ。神事などしげく、内侍所にもこと多かるころにて、女官ども、内侍ども参りつつ、今めかしう人騒がしきに、大将殿、昼もいと隠ろへたるさまにもてなして、籠もりおはするを、いと心づきなく、尚侍の君は思したり。 |
十一月になった。神事などが多く、内侍所にも仕事の多いころなので、女官連中、内侍連中が参上しては、はなやかに騒々しいので、大将殿は、昼もたいそう隠れたようにして籠もっていらっしゃるのを、たいそう気にくわなく、尚侍の君はお思いになっていた。 |
宮などは、まいていみじう口惜しと思す。兵衛督は、妹の北の方の御ことをさへ、人笑へに思ひ嘆きて、とり重ねもの思ほしけれど、「をこがましう、恨み寄りても、今はかひなし」と思ひ返す。 |
兵部卿宮などは、それ以上に残念にお思いになる。兵衛督は、妹の北の方の事までを外聞が悪いと嘆いて、重ね重ね憂鬱であったが、「馬鹿らしく、恨んでみても今はどうにもならない」と考え直す。 |
大将は、名に立てるまめ人の、年ごろいささか乱れたるふるまひなくて過ぐしたまへる、名残なく心ゆきて、あらざりしさまに好ましう、宵暁のうち忍びたまへる出で入りも、艶にしなしたまへるを、をかしと人びと見たてまつる。 |
大将は、有名な堅物で、長年少しも浮気沙汰もなくて過ごしてこられたのが、すっかり変わってご満悦で、別人のようなご様子で、夜や早朝の人目を忍んでいらっしゃる出入りも、恋人らしく振る舞っていらっしゃるのを、おもしろいと女房たちは拝する。 |
女は、わららかににぎははしくもてなしたまふ本性も、もて隠して、いといたう思ひ結ぼほれ、心もてあらぬさまはしるきことなれど、「大臣の思すらむこと、宮の御心ざまの、心深う、情け情けしうおはせし」などを思ひ出でたまふに、「恥づかしう、口惜しう」のみ思ほすに、もの心づきなき御けしき絶えず。 |
女は、陽気にはなやかにお振る舞いなさるご性分も表に出さず、とてもひどくふさぎ込んで、自分から求めて一緒になったのでないことは誰の目からも明らかであるが、「大臣がどうお思いであろうか、兵部卿宮のお気持ちの深くやさしくいらっしゃったこと」などを思い出しなさると、「恥ずかしく、残念だ」とばかりお思いになると、何かと気に入らないご様子が絶えない。 |