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若菜下

第五章 光る源氏の物語 源氏の音楽論    

4. 女楽終了、禄を賜う     

 

本文

現代語訳

 この君達の、いとうつくしく吹き立てて、切に心入れたるを、らうたがりたまひて、

 この若君たちが、とてもかわいらしく笛を吹き立てて、一生懸命になっているのを、おかわいがりになって、

 「ねぶたくなりにたらむに。今宵の遊びは、長くはあらで、はつかなるほどにと思ひつるを。とどめがたき物の音どもの、いづれともなきを、聞き分くほどの耳とからぬたどたどしさに、いたく更けにけり。心なきわざなりや」

 「眠たくなっているだろうに。今夜の音楽の遊びは、長くはしないで、ほんの少しのところでと思っていたが。やめるのには惜しい楽の音色が、甲乙をつけがたいのを、聞き分けるほどに耳がよくないので愚図愚図しているうちに、たいそう夜が更けてしまった。気のつかないことであった」

 とて、笙の笛吹く君に、土器さしたまひて、御衣脱ぎてかづけたまふ。横笛の君には、こなたより、織物の細長に、袴などことことしからぬさまに、けしきばかりにて、大将の君には、宮の御方より、杯さし出でて、宮の御装束一領かづけたてまつりたまふを、大殿、

 と言って、笙の笛を吹く君に、杯をお差しになって、お召物を脱いでお与えになる。横笛の君には、こちらから、織物の細長に、袴などの仰々しくないふうに、形ばかりにして、大将の君には、宮の御方から、杯を差し出して、宮のご装束を一領をお与え申し上げなさるのを、大殿は、

 「あやしや。物の師をこそ、まづはものめかしたまはめ。愁はしきことなり」

 「妙なことだね。師匠のわたしにこそ、さっそくご褒美を下さってよいものなのに。情ないことだ」

 とのたまふに、宮のおはします御几帳のそばより、御笛をたてまつる。うち笑ひたまひて取りたまふ。いみじき高麗笛なり。すこし吹き鳴らしたまへば、皆立ち出でたまふほどに、大将立ち止まりたまひて、御子の持ちたまへる笛を取りて、いみじくおもしろく吹き立てたまへるが、いとめでたく聞こゆれば、いづれもいづれも、皆御手を離れぬものの伝へ伝へ、いと二なくのみあるにてぞ、わが御才のほど、ありがたく思し知られける。

 とおっしゃるので、宮のおいであそばす御几帳の側から、御笛を差し上げる。微笑みなさってお取りになる。たいそう見事な高麗笛である。少し吹き鳴らしなさると、皆お返りになるところであったが、大将が立ち止まりなさって、ご子息の持っておいでの笛を取って、たいそう素晴らしく吹き鳴らしなさったのが、実に見事に聞こえたので、どなたもどなたも、皆ご奏法を受け継がれたお手並みが、実に又となくばかりあるので、ご自分の音楽の才能が、めったにないほどだと思われなさるのであった。



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