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鈴虫

第一章 女三の宮の物語 持仏開眼供養    

4. 三条宮邸を整備  

 

本文

現代語訳

 今しも、心苦しき御心添ひて、はかりもなくかしづききこえたまふ。院の帝は、この御処分の宮に住み離れたまひなむも、つひのことにて、目やすかりぬべく聞こえたまへど、

 今となって、おいたわしく思われる気持ちが加わって、この上もなく大切にお世話申し上げなさる。院の帝は、御相続なさった宮に離れてお住みになることも、結局のことなのだから、世間体がよいように申し上げなさるが、

 「よそよそにては、おぼつかなかるべし。明け暮れ見たてまつり、聞こえ承らむこと怠らむに、本意違ひぬべし。げに、あり果てぬ世いくばくあるまじけれど、なほ生ける限りの心ざしをだに失ひ果てじ」

 「離れ離れでいては、気掛かりであろう。毎日お世話申し上げて、こちらから申し上げたり用向きを承ることができないようでは、本意に外れることであろう。なるほど、いつまでも生きていられない世であるが、やはり生きている限りはお世話したい気持ちだけはなくしたくない」

 と聞こえたまひつつ、この宮をもいとこまかにきよらに造らせたまひ、御封の物ども、国々の御荘、御牧などより奉る物ども、はかばかしきさまのは、皆かの三条の宮の御倉に納めさせたまふ。またも、建て添へさせたまひて、さまざまの御宝物ども、院の御処分に数もなく賜はりたまへるなど、あなたざまの物は、皆かの宮に運び渡し、こまかにいかめしうし置かせたまふ。

 と申し上げ申し上げなさっては、あちらの宮も大変念入りに美しくご改築させなさって、御封の収入、国々の荘園、牧場などからの献上物で、これはと思われる物は、全てあちらの三条宮の御倉に納めさせなさる。さらに又、増築させて、いろいろな御宝物類、院の御遺産相続の時に無数にお譲り受けなさった物など、宮の関係の品物は、全てあちらの宮に運び移して、念を入れて厳重に保管させなさる。

 明け暮れの御かしづき、そこらの女房のことども、上下の育みは、おしなべてわが御扱ひにてなど、急ぎ仕うまつらせたまひける。

 日常のお世話、大勢の女房の事ども、上下の人々の面倒は、全てご自分の経費のまかないでなどと、急いでお手入れをして差し上げる。



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