第五章 落葉宮の物語 夕霧執拗に迫る
7. 落葉宮、塗籠に籠る
本文 |
現代語訳 |
かく心ごはけれど、今は、堰かれたまふべきならねば、やがてこの人をひき立てて、推し量りに入りたまふ。 |
このように強情であるが、今となっては、邪魔立てされなさるおつもりもないので、そのままこの人を引き立てて、当て推量にお入りになる。 |
宮は、「いと心憂く、情けなくあはつけき人の心なりけり」と、ねたくつらければ、「若々しきやうには言ひ騒ぐとも」と思して、塗籠に御座ひとつ敷かせたまて、うちより鎖して大殿籠もりにけり。「これもいつまでにかは。かばかりに乱れ立ちにたる人の心どもは、いと悲しう口惜しう」思す。 |
宮は、「まことに嫌でたまらない、思いやりのない浅薄な心の方だった」と、悔しく辛いので、「大人げないようだと言われようとも」とご決意なさって、塗籠にご座所を一つ敷かせなさって、内側から施錠して、お寝みになってしまった。「これもいつまで続くことであろうか。これほどに浮き足立っている女房たちの気持ちは、何と悲しく残念なことか」とお思いなさる。 |
男君は、めざましうつらしと思ひきこえたまへど、かばかりにては、何のもて離るることかはと、のどかに思して、よろづに思ひ明かしたまふ。山鳥の心地ぞしたまうける。からうして明け方になりぬ。かくてのみ、ことといへば、直面なべければ、出でたまふとて、 |
男君は、心外なひどい仕打ちとお思い申し上げなさるが、このようなことで、どうして逃れることができようかと、気長にお考えになって、いろいろと思案しながら夜をお明かしなさる。山鳥の気がなさるのであった。やっとのことで明け方になった。こうしてばかり、取り立てて言うと、にらみ合いになりそうなので、お出になろうとして、 |
「ただ、いささかの隙をだに」 |
「ただ、少しの隙間だけでも」 |
と、いみじう聞こえたまへど、いとつれなし。 |
と、しきりにお頼み申し上げなさるが、まったくお返事がない。 |
「怨みわび胸あきがたき冬の夜に また鎖しまさる関の岩門 |
「怨んでも怨みきれません、胸の思いを晴らすことのできない冬の夜に そのうえ鎖された関所のような岩の門です |
聞こえむ方なき御心なりけり」 |
何とも申し上げようのない冷たいお心です」 |
と、泣く泣く出でたまふ。 |
と、泣く泣くお出になる。 |