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御法

第三章 光る源氏の物語 源氏の悲嘆と弔問客たち    

3. 秋好中宮の弔問  

 

本文

現代語訳

 冷泉院の后の宮よりも、あはれなる御消息絶えず、尽きせぬことども聞こえたまひて、

 冷泉院の后の宮からも、お心のこもったお便りが絶えずあり、尽きない悲しみをあれこれと申し上げなさって、

 「枯れ果つる野辺を憂しとや亡き人の

   秋に心をとどめざりけむ

 「枯れ果てた野辺を嫌ってか、亡くなられたお方は

   秋をお好きにならなかったのでしょうか

 今なむことわり知られはべりぬる」

 今になって理由が分かりました」

 とありけるを、ものおぼえぬ御心にも、うち返し、置きがたく見たまふ。「いふかひあり、をかしからむ方の慰めには、この宮ばかりこそおはしけれ」と、いささかのもの紛るるやうに思し続くるにも、涙のこぼるるを、袖の暇なく、え書きやりたまはず。

 とあったのを、何も分からぬお気持ちにも、繰り返し、下にも置きがたく御覧になる。「話相手になれる風情ある歌のやりとりをして気を慰める人としては、この中宮だけがいらっしゃった」と、少しは悲しみも紛れるようにお思い続けても、涙がこぼれるのを、袖の乾く間もなく、返歌をなかなかお書きになれない。

 「昇りにし雲居ながらもかへり見よ

   われ飽きはてぬ常ならぬ世に」

 「煙となって昇っていった雲居からも振り返って欲しい

   わたしはこの無常の世にすっかり飽きてしまいました」

 おし包みたまひても、とばかり、うち眺めておはす。

 お包みになっても、そのまま茫然と、物思いに耽っていらっしゃる。

 すくよかにも思されず、われながら、ことのほかにほれぼれしく思し知らるること多かる、紛らはしに、女方にぞおはします。

 しっかりとしたお心もなく、自分ながら、ことのほかに正体もないさまにお思い知られることが多いので、紛らわすために、女房のほうにいらっしゃる。

 仏の御前に人しげからずもてなして、のどやかに行なひたまふ。千年をももろともにと思ししかど、限りある別れぞいと口惜しきわざなりける。今は、蓮の露も異事に紛るまじく、後の世をと、ひたみちに思し立つこと、たゆみなし。されど、人聞きを憚りたまふなむ、あぢきなかりける。

 仏の御前に女房をあまり多くなくお召しになって、心静かにお勤めになる。千年も一緒にとお思いになったが、限りのある別れが実に残念なことであった。今は、極楽往生の願いが他のことに紛れないように、来世をと、一途にお思い立ちになられる気持ち、揺ぎもない。けれども、外聞を憚っていらっしゃるのは、つまらないことであった。

 御わざのことども、はかばかしくのたまひおきつることどもなかりければ、大将の君なむ、とりもちて仕うまつりたまひける。今日やとのみ、わが身も心づかひせられたまふ折多かるを、はかなくて、積もりにけるも、夢の心地のみす。中宮なども、思し忘るる時の間なく、恋ひきこえたまふ。

 御法要の事も、はっきりとお取り決めなさることもなかったので、大将の君が、万事引き受けてお営みなさるのであった。今日が最期かとばかり、ご自身でもお覚悟される時が多いのであったが、いつのまにか、月日が積もってしまったのも、夢のような気ばかりがする。中宮なども、お忘れになる時の間もなく、恋い慕っていらっしゃる。



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