第二章 中君の物語 匂宮との京での結婚生活が始まる
3. 夕霧、六の君の裳着を行い、結婚を思案す
本文 |
現代語訳 |
右の大殿は、六の君を宮にたてまつりたまはむこと、この月にと思し定めたりけるに、かく思ひの外の人を、このほどより先にと思し顔にかしづき据ゑたまひて、離れおはすれば、「いとものしげに思したり」と聞きたまふも、いとほしければ、御文は時々たてまつりたまふ。 |
右の大殿は、六の君を宮に差し上げなさることを、今月にとお決めになっていたのに、このように意外な人を、婚儀より先にと言わんばかりに大事にお迎えになって、寄りつかずにいらっしゃるので、「たいそうご不快でおいでだ」とお聞きになるのも、お気の毒なので、お手紙は時々差し上げなさる。 |
御裳着のこと、世に響きていそぎたまへるを、延べたまはむも人笑へなるべければ、二十日あまりに着せたてまつりたまふ。 |
御裳着の儀式を、世間の評判になるほど盛大に準備なさっているのを、延期なさるのも物笑いになるにちがいないので、二十日過ぎにお着せ申し上げなさる。 |
同じゆかりにめづらしげなくとも、この中納言をよそ人に譲らむが口惜しきに、 |
同じ一族で変わりばえがしないが、この中納言を他人に譲るのが残念なので、 |
「さもやなしてまし。年ごろ人知れぬものに思ひけむ人をも亡くなして、もの心細くながめゐたまふなるを」 |
「婿君としようか。長年人知れず恋い慕っていた人を亡くして、何となく心細く物思いに沈んでいらっしゃるというから」 |
など思し寄りて、さるべき人してけしきとらせたまひけれど、 |
などとお考えつきになって、しかるべき人を介して様子を窺わせなさったが、 |
「世のはかなさを目に近く見しに、いと心憂く、身もゆゆしうおぼゆれば、いかにもいかにも、さやうのありさまはもの憂くなむ」 |
「世の無常を目の前に見たので、まことに気が塞いで、身も不吉に思われますので、何としても何としても、そのようなことは気が進みません」 |
と、すさまじげなるよし聞きたまひて、 |
と、その気のない旨をお聞きになって、 |
「いかでか、この君さへ、おほなおほな言出づることを、もの憂くはもてなすべきぞ」 |
「どうして、この君までが、真剣になって申し出る言葉を、気乗りしなくあしらってよいものか」 |
と恨みたまひけれど、親しき御仲らひながらも、人ざまのいと心恥づかしげにものしたまへば、えしひてしも聞こえ動かしたまはざりけり。 |
と恨みなさったが、親しいお間柄ながらも、人柄がたいそう気のおける方なので、無理にお勧め申し上げなさることができなかった。 |