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浮舟

第一章 匂宮の物語 匂宮、大内記から薫と浮舟の関係を聞き知る   

2. 薫、浮舟を宇治に放置    

 

本文

現代語訳

 かの人は、たとしへなくのどかに思しおきてて、「待ち遠なりと思ふらむ」と、心苦しうのみ思ひやりたまひながら、所狭き身のほどを、さるべきついでなくて、かやしく通ひたまふべき道ならねば、神のいさむるよりもわりなし。されど、

 あの方は、たとえようもなくのんびりと構えていらっしゃって、「待ち遠しいと思っているだろう」と、お気の毒にはお思いやりになりながら、窮屈な身の上を、適当な機会がなくては、たやすくお通いになれる道ではないので、神が禁じている以上に困っている。けれども、

 「今いとよくもてなさむ、とす。山里の慰めと思ひおきてし心あるを、すこし日数も経ぬべきことども作り出でて、のどやかに行きても見む。さて、しばしは人の知るまじき住み所して、やうやうさる方に、かの心をものどめおき、わがためにも、人のもどきあるまじく、なのめにてこそよからめ。

 「いずれはたいそうよく扱ってやろう、と思う。山里の慰めと思っていた考えがあるが、少し日数のかかりそうな事柄を作り出して、のんびりと出かけて行って逢おう。そうして、しばらくの間は誰も知らない住処で、だんだんとそのようなことで、あの女の気持ちも馴れさせて、自分にとっても、他人から非難されないように、目立たぬようにするのがよいだろう。

 にはかに、何人ぞ、いつより、など聞きとがめられむも、もの騒がしく、初めの心に違ふべし。また、宮の御方の聞き思さむことも、もとの所を際々しう率て離れ、昔を忘れ顔ならむ、いと本意なし」

 急に迎えて、誰だろう、いつからだろう、などと取り沙汰されるのも、何となく煩わしく、当初の考えと違ってこよう。また、宮の御方がお聞きになってご心配になることも、もとの場所をきっぱりと離れて連れ出し、昔を忘れてしまったような顔なのも、まことに不本意だ」

 など思し静むるも、例の、のどけさ過ぎたる心からなるべし。渡すべきところ思しまうけて、忍びてぞ造らせたまひける。

 などと冷静に考えなさるのも、いつもの、のんびりと構え過ぎた性分からであろう。引っ越しさせる所を考えておいて、こっそりと造らせなさるのであった。



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