4. 三月三日は
  本文  現代語訳
  三月三日は、うらうらとのどかに照りたる。桃の花のいまさきはじむる。柳などをかしきこそさらなれ、それもまだまゆにこもりたるはをかし。ひろごりたるはうたてぞみゆる。   三月三日は、うららかにのどかに美しく光り輝く。桃の花が新しく咲き始める。柳などが面白いことこそ言うまでもないが、それもまだ眉にこもっているのはおもしろい。広がってしまったのは面白くなく見える。
   
  おもしろくさきたる桜をながく折りて、おほきなる瓶にさしたるこそをかしけれ。桜の直衣出袿して、まらうどにもあれ、御せうとの君たちにても、そこちかくゐてなどうちいひたる、いとをかし。   風流に咲いている桜を長く折って、大きな瓶に挿すことこそ面白い。桜の襲に出袿をして、客人もあり、御兄弟の君たちにしても、そこの近くにいて、物などをちょっというのは、たいそうおもしろい。
   
   
   
   
   
   
   
 

 特殊体験をふまえた普遍化。宮中生活から取材した随筆。諸本に本文上の問題がある。

1 三月三日…上巳(じょうし)の節。水辺で祓をし遊宴を張る。

2 いま…今内裏・今参りの「今」と同様新しくの意。

3 まゆ…柳の葉のまだ開かぬ形が蚕の繭ごもりに似るのをいうか。春曙抄に兼輔集の「青柳のまゆにこもれる糸なれば春のくるにぞ色まさりける」を引く。一説に眉の意と解する。「まゆに」はまゆの如くにの意。

4 うたて…能因本に「にくし花もちりたる後はうたてぞみゆる」とあり、堺本・前田本に異文がある。

5 おもしろくさきたる桜…以下の叙述は〔23〕「清涼殿の丑寅のすみの」の段に見える特殊体験の一般化とみられる。

6 桜の直衣…襲の色目。表白、裏赤・紫など。直衣は貴人の常服で、勅許があれば宮中でも着用できた。

7 出袿…直衣の下に着た衣の裾の美々しいのを上衣と指貫との間に出して着ること。出衣ともいう。