57. 若くよろしき男の
本文 |
現代語訳 |
語彙 |
若くよろしき男の、下衆女の名よび馴れていひたるこそにくけれ。知りながらも、なにとかや、片文字はおぼえでいふはをかし。 |
若く身分教養が良い男が、身分の低い女の名を呼び慣れて言うことは、しゃくに障る。知っていても、「何といったっけ」など、名の半分は思い出さぬ風にいうのはよい。 |
にくし【憎し】…【形ク】@しゃくにさわる。気に入らない。いやだ。憎らしい。A感じが悪い。みっともない。見苦しい。Bあっぱれだ。見事だ。優れている。▽憎く感じるほど優れているようす。 |
宮仕所の局によりて、夜などぞあしかるべけれど、主殿司、さらぬただ所などは、侍などにある者を具して来ても呼ばせよかし。手づから、馨もしるきに。はした者・わらはべなどは、されどよし。 |
宮仕所の局によって、夜などは悪いだろうが、宮中ならば主殿司、宮中でない一般の邸などでは侍所(従者の詰所)などにいる者を連れて来てでも呼ばせるがよい。自分で呼んでは声もはっきりして困るのだから。雑仕女や童女の場合は、まあそれでもよい。 |
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日常生活、特に言語に関する評論の一。
4 主殿司…堺本・前田本はこの前に「それもうちわたりなどは」とある。宮中ならば…の意。
7 手づから…能因本「てづからは声もしるきにみぐるし」。