61. 滝は
本文 |
現代語訳 |
語彙 |
瀧は おとなしの瀧。布留の瀧は、法皇の御覧じにおはしましけんこそめでたけれ。那智の瀧は、熊野にありと聞くがあはれなるなり。とどろきの瀧は、いかにかしがましくおそろしからん。 |
滝はと言えば、おとなしの滝。布留の滝は、法皇がご覧になったようだというからめでたいものだ。那智の滝は、熊野にあると聞くが、情趣のある事だ。とどろきの滝は、いかにもやかましく、おそろしいのだろう。 |
けん(けむ)…【助動四】@〔過去の推量〕〜ただろう。〜だっただろう。A〔過去の原因の推量〕〜たというわけなのだろう。(〜というので)〜たのだろう。▽上に疑問を表す語を伴う。B〔過去の伝聞〕〜たとかいう。〜たそうだ。 かしがまし【囂し】…【形シク】@(音や声が)やかましい。がやがやとうるさい。Aとやかく言うさま。口うるさい。(「かしかまし」が近世以降「かしがまし」に転ずる) |
1 おとなしの瀧…紀伊国牟婁郡。「音無」の名の興味。
2 布留の瀧…大和国山辺郡布留川の上流にある。
3 法皇…花山法皇か。但し法皇と名のつく方の布留の滝御幸は史書に所見がない。
4 那智の瀧…紀伊国牟婁郡那智山。
5 とどろきの瀧…紀伊国牟婁郡。熊野権現の所在地。新宮・本宮・那智を熊野三所と称し、修験道の霊地とされた。「あはれ」はその詠嘆をあらわす。