70. おぼつかなきもの
本文 |
現代語訳 |
語彙 |
おぼつかなきもの 十二年の山ごもりの法師の女親。知らぬ所に、闇なるにいきたるに、あらはにもぞあるとて、火もともさで、さすがに並みゐたる。 |
気がかりなものと言えば、十二年の比叡山の山籠もりの法師の母親だ。立ち入る権限のない所に、新月の夜に行くのに、丸見えでは具合が悪いので、火も灯さないで、それでも並んで座っている。 |
さすが【流石】…【副詞】@そうはいうものの。そうかといって、やはり。▽前のことと裏腹になるさま。Aいかにも。なんといってもやはり。▽当然であるさま。 |
いま出で来たる者の心も知らぬに、やむごとなき物持たせて、人のもとにやりたるに、おそく帰る。物もまだいはぬちごの、そりくつがへり、人にもいだかれず泣きたる。 |
新参の召使いの気ごころも知れないのに、貴重な品物を持たせて、人のもとにやったのに、遅く帰ること。物もまだ言わない幼児が、ふんぞりかえって、人にも抱かれず、泣くこと。 |
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1 おぼつかなきもの…気がかりなもの。不安な感じのもの。
2 十二年の山ごもり…「山」は比叡山。比叡山延暦寺では、出家受戒の後ここに籠って修行する者に十二年間下山を許さなかった。
3 闇なる…闇の夜、すなわち月のない夜。
6 いま…「いま」は「今参り」「今内裏」などの場合と同意の語。