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桐壷 第三章 光る源氏の物語 |
5.源氏、藤壺を思慕 |
本文 |
現代語訳 |
源氏の君は、御あたり去りたまはぬを、ましてしげく渡らせたまふ御方は、え恥ぢあへたまはず。いづれの御方も、われ人に劣らむと思いたるやはある、とりどりにいとめでたけれど、うち大人びたまへるに、いと若ううつくしげにて、切に隠れたまへど、おのづから漏り見たてまつる。 |
源氏の君は、お側をお離れにならないので、誰より足しげくお渡りあそばすお妃方は、恥ずかしがってばかりいらっしゃれない。どのお妃方も自分が人より劣っていると思っていらっしゃる人があろうか、それぞれにとても素晴らしいが、お年を召しておいでになるのに対して、とても若くかわいらしい様子で、頻りにお姿をお隠しなさるが、自然と漏れ見える。 |
母御息所も、影だにおぼえたまはぬを、「いとよう似たまへり」と、典侍の聞こえけるを、若き御心地にいとあはれと思ひきこえたまひて、常に参らまほしく、「なづさひ見たてまつらばや」とおぼえたまふ。 |
母御息所は、顔かたちすらご記憶でないのを、「大変によく似ていらっしゃる」と、典侍が申し上げたのを、幼心にとても慕わしいとお思い申し上げなさって、いつもお側に参りたく、「親しく見たいものだ」とお思いになる。 |
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主上も限りなき御思ひどちにて、「な疎みたまひそ。あやしくよそへきこえつべき心地なむする。なめしと思さで、らうたくしたまへ。つらつき、まみなどは、いとよう似たりしゆゑ、かよひて見えたまふも、似げなからずなむ」など聞こえつけたまへれば、幼心地にも、はかなき花紅葉につけても心ざしを見えたてまつる。こよなう心寄せきこえたまへれば、弘徽殿の女御、またこの宮とも御仲そばそばしきゆゑ、うち添へて、もとよりの憎さも立ち出でて、ものしと思したり。 |
天皇もこの上なくおかわいがりのお二方なので、「どうか嫌いなさいますな。不思議と若君の母君となぞらえてもよいような気持ちがする。無礼だと思わず、いとおしみなさい。顔だち、目もとなど、大変よく似ているから、母君のようにお見えになるのも、似つかわしくなくはない」などと、お頼みになっているので、幼心にも、ちょっとした美しさにつけても、お気持ちを表しになる。この上なく好意をお寄せ申していらっしゃるので、弘徽殿の女御は、またこの宮ともお仲がよくないので、それに加えて、もとからの憎しみももり返して、不愉快だとお思いになっていた。 |
世にたぐひなしと見たてまつりたまひ、名高うおはする宮の御容貌にも、なほ匂はしさはたとへむ方なく、うつくしげなるを、世の人、「光る君」と聞こゆ。藤壺ならびたまひて、御おぼえもとりどりなれば、「かかやく日の宮」と聞こゆ。 |
世にまたとないお方だとご覧になり、評判高くおいでになる宮のご容貌に対しても、やはり美しさにおいては比較できないほどなので、世の中の人は、「光る君」と呼ぶ。藤壺もお並びになって、御寵愛がそれぞれに厚いので、「輝く日の宮」と呼ぶ。 |
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