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桐壷 第三章 光る源氏の物語 |
7.源氏、左大臣家の娘(葵上)と結婚 |
本文 |
現代語訳 |
その夜、大臣の御里に源氏の君まかでさせたまふ。作法世にめづらしきまで、もてかしづききこえたまへり。いときびはにておはしたるを、ゆゆしううつくしと思ひきこえたまへり。女君はすこし過ぐしたまへるほどに、いと若うおはすれば、似げなく恥づかしと思いたり。 |
その夜、大臣のお邸に源氏の君を退出させなさる。婿取りの儀式は世に例がないほど立派におもてなしになった。とても若くおいでなのを、たいそうかわいいとお思い申し上げなさった。女君は少し年長でおいでなのに対して、婿君がたいそうお若くいらっしゃるので、似つかわしくなく恥ずかしいとお思いでいらっしゃった。 |
この大臣の御おぼえいとやむごとなきに、母宮、内裏の一つ后腹になむおはしければ、いづ方につけてもいとはなやかなるに、この君さへかくおはし添ひぬれば、春宮の御祖父にて、つひに世の中を知りたまふべき右大臣の御勢ひは、ものにもあらず圧されたまへり。 |
この大臣は帝のご信任が厚い上に、姫君の母宮が帝と同じ母后のお生まれでいらっしゃったので、どちらから言っても立派な上に、この君までがこのように婿君としてお加わりになったので、皇太子の御祖父で、最後には天下を支配なさるはずの右大臣のご威勢も、ものともなく圧倒されてしまった。 |
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御子どもあまた腹々にものしたまふ。宮の御腹は、蔵人少将にていと若うをかしきを、右大臣の、御仲はいと好からねど、え見過ぐしたまはで、かしづきたまふ四の君にあはせたまへり。劣らずもてかしづきたるは、あらまほしき御あはひどもになむ。 |
ご子息たちが大勢それぞれの夫人方にいらっしゃる。宮がお生みの方は、蔵人少将で大変若く美しい方なので、右大臣が、左大臣家との間柄はあまりよくないが、とても放っておくこともおできになれず、大切になさっている四の君に婿取りなさっていた。劣らず大切にお世話なさっているのは、両家とも理想的な婿舅の間柄である。 |
源氏の君は、主上の常に召しまつはせば、心安く里住みもえしたまはず。心のうちには、ただ藤壺の御ありさまを、類なしと思ひきこえて、「さやうならむ人をこそ見め。似る人なくもおはしけるかな。大殿の君、いとをかしげにかしづかれたる人とは見ゆれど、心にもつかず」おぼえたまひて、幼きほどの心一つにかかりて、いと苦しきまでぞおはしける。 |
源氏の君は、主上がいつもお召しになって放さないので、気楽に私邸で過すこともおできになれない。心中では、ひたすら藤壺のご様子を、またといない方とお慕い申し上げて、「そのような女性こそ妻にしたいものだ、似た方もいらっしゃらないな。大殿の姫君は、たいそう興趣ありそうに大切に育てられている方だと思われるが、少しも心惹かれない」というように感じられて、幼心一つに思いつめて、とても苦しいまでに悩んでいらっしゃるのであった。 |
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