|
|
|
|
空蝉 |
1.空蝉の物語 |
本文 |
現代語訳 |
寝られたまはぬままには、「我は、かく人に憎まれてもならはぬを、今宵なむ、初めて憂しと世を思ひ知りぬれば、恥づかしくて、ながらふまじうこそ、思ひなりぬれ」などのたまへば、涙をさへこぼして臥したり。いとらうたしと思す。手さぐりの、細く小さきほど、髪のいと長からざりしけはひのさまかよひたるも、思ひなしにやあはれなり。あながちにかかづらひたどり寄らむも、人悪ろかるべく、まめやかにめざましと思し明かしつつ、例のやうにものたまひまつはさず。夜深う出でたまへば、この子は、いといとほしく、さうざうしと思ふ。 |
お寝みになれないままには、「わたしは、このように人に憎まれたことはないのに、今晩、初めて辛いと男女の仲を知ったので、恥ずかしくて、生きて行けないような気持ちになってしまった」などとおっしゃると、涙まで流して臥している。とてもかわいいとお思いになる。手触りから、ほっそりした小柄な体つきや、髪のたいして長くはなかった感じが似通っているのも、気のせいか愛しい。むやみにしつこく探し求めるのも、体裁悪いだろうし、本当に癪に障るとお思いになりながら夜を明かしては、いつものように側につきまとわせおっしゃることもない。夜の深いうちにお帰りになるので、この子は、たいそうお気の毒で、つまらないと思う。 |
女も、並々ならずかたはらいたしと思ふに、御消息も絶えてなし。思し懲りにけると思ふにも、「やがてつれなくて止みたまひなましかば憂からまし。しひていとほしき御振る舞ひの絶えざらむもうたてあるべし。よきほどに、かくて閉ぢめてむ」と思ふものから、ただならず、ながめがちなり。 |
女も、大変に気がとがめると思うと、お手紙もまったくない。お懲りになったのだと思うにつけても、「このまま冷めておやめになってしまったら嫌な思いであろう。強引に困ったお振る舞いが絶えないのも嫌なことであろう。適当なところで、こうしてきりをつけたい」と思うものの、平静ではなく、物思いがちである。 |
君は、心づきなしと思しながら、かくてはえ止むまじう御心にかかり、人悪ろく思ほしわびて、小君に、「いとつらうも、うれたうもおぼゆるに、しひて思ひ返せど、心にしも従はず苦しきを。さりぬべきをり見て、対面すべくたばかれ」とのたまひわたれば、わづらはしけれど、かかる方にても、のたまひまつはすは、うれしうおぼえけり。 |
源氏の君は、気にくわないとお思いになる一方で、このままではやめられなくお心にかかり、体裁悪くまでお困りになって、小君に、「とても辛く、情けなくも思われるので、無理に忘れようとするが、思いどおりにならず苦しいのだよ。適当な機会を見つけて、逢えるように手立てせよ」とおっしゃり続けるので、やっかいに思うが、このような事柄でも、お命じになって使ってくださることは、嬉しく思われるのであった。 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|