| 空蝉 | |
| 2.源氏、再度、紀伊守邸へ | |
| 本文 | 現代語訳 |
| 幼き心地に、いかならむ折と待ちわたるに、紀伊守国に下りなどして、女どちのどやかなる夕闇の道たどたどしげなる紛れに、わが車にて率てたてまつる。 | 子供心に、どのような機会にと待ち続けていると、紀伊守が任国へ下ったりなどして、女たちがくつろいでいる夕闇頃の道がはっきりしないのに紛れて、自分の車で、お連れ申し上げる。 |
| この子も幼きを、いかならむと思せど、さのみもえ思しのどむまじければ、さりげなき姿にて、門など鎖さぬ先にと、急ぎおはす。 | この子も子供なので、どうだろうかとご心配になるが、そう悠長にも構えていらっしゃれなかったので、目立たない服装で、門などに鍵がかけられる前にと、急いでいらっしゃる。 |
| 人見ぬ方より引き入れて、降ろしたてまつる。童なれば、宿直人などもことに見入れ追従せず、心やすし。 | 人目のない方から引き入れて、お降ろし申し上げる。子供なので、宿直人なども特別に気をつかって機嫌をとらず、安心である。 |
| 東の妻戸に、立てたてまつりて、我は南の隅の間より、格子叩きののしりて入りぬ。御達、 | 東の妻戸の側に、お立たせ申し上げて、自分は南の隅の間から、格子を叩いて声を上げて入った。御達は、 |
| 「あらはなり」と言ふなり。 | 「丸見えです」と言っているようだ。 |
| 「なぞ、かう暑きに、この格子は下ろされたる」と問へば、 | 「どうして、こう暑いのに、この格子を下ろしておられるのか」と尋ねると、 |
| 「昼より、西の御方の渡らせたまひて、碁打たせたまふ」と言ふ。 | 「昼から、西の御方がお渡りあそばして、碁をお打ちあそばしていらっしゃいます」と言う。 |
| さて向かひゐたらむを見ばや、と思ひて、やをら歩み出でて、簾のはさまに入りたまひぬ。 | そうして向かい合っているのを見たい、と思って、静かに歩を進めて、簾の隙間にお入りになった。 |
| この入りつる格子はまだ鎖さねば、隙見ゆるに、寄りて西ざまに見通したまへば、この際に立てたる屏風、端の方おし畳まれたるに、紛るべき几帳なども、暑ければにや、うち掛けて、いとよく見入れらる。 | 先程入った格子はまだ閉めてないので、隙間が見えるので、近寄って西の方を見通しなさると、こちら側の際に立ててある屏風は、端の方が畳まれているうえに、目隠しのはずの几帳なども、暑いからであろうか、うち掛けてあって、とてもよく覗き見ることができる。 |