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澪標

第三章 光る源氏の物語 新旧後宮女性の動向

2. 筑紫の五節と朧月夜尚侍

 

本文

現代語訳

 かやうのついでにも、五節を思し忘れず、「また見てしがな」と、心にかけたまへれど、いとかたきことにて、え紛れたまはず。

  女、もの思ひ絶えぬを、親はよろづに思ひ言ふこともあれど、世に経むことを思ひ絶えたり。

 このような折にも、あの五節をお忘れにならず、「また会いたいものだ」と、心に掛けていらっしゃるが、たいそう難しいことで、お忍びで行くこともできない。

  女は、物思いが絶えないのを、親はいろいろと縁談を勧めることもあるが、普通の結婚生活を送ることを断念していた。

 心やすき殿造りしては、「かやうの人集へても、思ふさまにかしづきたまふべき人も出でものしたまはば、さる人の後見にも」と思す。

  かの院の造りざま、なかなか見どころ多く、今めいたり。よしある受領などを選りて、当て当てに催したまふ。

 気兼ねのいらない邸を造ってからは、「このような人々を集めて、思い通りにお世話なさる子どもが出て来たら、その人の後見にもしよう」とお思いになる。

  東の院の造りようは、かえって見所が多く今風である。風流を解する受領など選んで、それぞれに分担させて急がせなさる。

 尚侍の君、なほえ思ひ放ちきこえたまはず。こりずまに立ち返り、御心ばへもあれど、女は憂きに懲りたまひて、昔のやうにもあひしらへきこえたまはず。なかなか、所狭う、さうざうしう世の中、思さる。

 尚侍の君を、今でもおあきらめなさることがおできになれない。失敗に懲りもせずに再び、お気持ちをお見せになることもあるが、女は嫌なことに懲りなさって、昔のようにお相手申し上げなさらない。かえって、窮屈で、間柄を物足りないと、お思いになる。



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