第三章 光る源氏の物語 新旧後宮女性の動向
4.
冷泉帝後宮の入内争い
本文 |
現代語訳 |
兵部卿親王、年ごろの御心ばへのつらく思はずにて、ただ世の聞こえをのみ思し憚りたまひしことを、大臣は憂きものに思しおきて、昔のやうにもむつびきこえたまはず。 なべての世には、あまねくめでたき御心なれど、この御あたりは、なかなか情けなき節も、うち交ぜたまふを、入道の宮は、いとほしう本意なきことに見たてまつりたまへり。 |
兵部卿親王は、ここ数年来のお心が冷たく案外な仕打ちで、ただ世間のおもわくだけを気になさっていらしたことを、内大臣は恨めしくお思いになっておられて、昔のようにお親しみ申し上げなさらない。 世間一般に対しては、誰に対しても結構なお心なのであるが、この宮あたりに対しては、むしろ冷淡な態度も、ままおとりになるのを、入道の宮は、困ったことで不本意なことだ、とお思い申し上げていらっしゃった。 |
世の中のこと、ただなかばを分けて、太政大臣、この大臣の御ままなり。 権中納言の御女、その年の八月に参らせたまふ。祖父殿ゐたちて、儀式などいとあらまほし。 兵部卿宮の中の君も、さやうに心ざしてかしづきたまふ名高きを、大臣は、人よりまさりたまへとしも思さずなむありける。いかがしたまはむとすらむ。 |
天下の政事は、まったく二分して、太政大臣と、この内大臣のお心のままである。 権中納言の御娘、その年の八月に入内させなさる。祖父大臣が率先なさって、儀式などもたいそう立派である。 兵部卿宮の中の君も、そのように志して、大切にお世話なさっているとの評判は高いが、内大臣は、他より一段と勝るようにとも、お考えにはならないのであった。どうなさるおつもりであろうか。 |