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絵合

第一章 前斎宮の物語 前斎宮をめぐる朱雀院と光る源氏の確執 

4. 源氏、朱雀院と語る 

 

本文

現代語訳

 院には、かの櫛の筥の御返り御覧ぜしにつけても、御心離れがたかりけり。

 院におかせられては、あの櫛の箱のお返事を御覧になったにつけても、お諦めにくくお思いであった。

 そのころ、大臣の参りたまへるに、御物語こまやかなり。ことのついでに、斎宮の下りたまひしこと、先々ものたまひ出づれば、聞こえ出でたまひて、さ思ふ心なむありしなどは、えあらはしたまはず。大臣も、かかる御けしき聞き顔にはあらで、ただ「いかが思したる」とゆかしさに、とかうかの御事をのたまひ出づるに、あはれなる御けしき、あさはかならず見ゆれば、いといとほしく思す。

 そのころ、内大臣が参上なさったので、しみじみとお話なさった。事のついでに、斎宮がお下りになったこと、以前にもお話し出されたので、お口に出されたが、あのように恋い慕っていたお気持ちがあったなどとは、お打ち明けになれない。大臣も、このようなご意向を知っているふうに顔にはお出しにならず、ただ「どうお思いでいらっしゃるか」とだけ知りたくて、何かとあの御事をお話に出されると、御傷心の御様子、並々ならず窺えるので、たいそう気の毒にお思いになる。

 「めでたしと、思ほししみにける御容貌、いかやうなるをかしさにか」と、ゆかしう思ひきこえたまへど、さらにえ見たてまつりたまはぬを、ねたう思ほす。

  いと重りかにて、夢にもいはけたる御ふるまひなどのあらばこそ、おのづからほの見えたまふついでもあらめ、心にくき御けはひのみ深さまされば、見たてまつりたまふままに、いとあらまほしと思ひきこえたまへり。

 「素晴らしい器量だと、御執着していらっしゃるご容貌、いったいどれほどの美しさなのか」と、拝見したくお思い申されるが、まったく拝見おできになれないのを悔しくお思いになる。

  まことに重々しくて、仮にも子どもっぽいお振る舞いなどがあれば、自然とちらりとお見せになることもあろうが、奥ゆかしいお振る舞いが深くなっていく一方なので、拝見するにつれて、実に理想的だとお思い申し上げた。

 かく隙間なくて、二所さぶらひたまへば、兵部卿宮、すがすがともえ思ほし立たず、「帝、おとなびたまひなば、さりとも、え思ほし捨てじ」とぞ、待ち過ぐしたまふ。二所の御おぼえども、とりどりに挑みたまへり。

 このように隙間もない状態で、お二方が伺候していらっしゃるので、兵部卿宮、すらすらとはご決意になれず、「主上が、御成人あそばしたら、いくらなんでも、お見捨てあそばすことはあるまい」と、その時機をお待ちになる。お二方の御寵愛は、それぞれに競い合っていらっしゃる。



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