第四章 光る源氏の物語 光る源氏世界の黎明
3. 冷泉朝の盛世
本文 |
現代語訳 |
そのころのことには、この絵の定めをしたまふ。 「かの浦々の巻は、中宮にさぶらはせたまへ」 と聞こえさせたまひければ、これが初め、残りの巻々ゆかしがらせたまへど、 「今、次々に」 と聞こえさせたまふ。主上にも御心ゆかせたまひて思し召したるを、うれしく見たてまつりたまふ。 |
その当時のことぐさには、この絵日記の評判をなさる。 「あの浦々の巻は、中宮にお納めください」 とお申し上げさせになったので、この初めの方や、残りの巻々を御覧になりたくお思いになったが、 「いずれそのうちに、ぼつぼつと」 とお申し上げさせになる。主上におかせられても、御満足に思し召していらっしゃるのを、嬉しくお思い申し上げなさる。 |
はかなきことにつけても、かうもてなしきこえたまへば、権中納言は、「なほ、おぼえ圧さるべきにや」と、心やましう思さるべかめり。主上の御心ざしは、もとより思ししみにければ、なほ、こまやかに思し召したるさまを、人知れず見たてまつり知りたまひてぞ、頼もしく、「さりとも」と思されける。 |
ちょっとしたことにつけても、このようにお引き立てになるので、権中納言は、「やはり、世間の評判も圧倒されるのではなかろうか」と、悔しくお思いのようである。主上の御愛情は、初めから馴染んでいらっしゃったので、やはり、御寵愛厚い御様子を、人知れず拝見し存じ上げていらっしゃったので、頼もしく思い、「いくら何でも」とお思になるのであった。 |
さるべき節会どもにも、「この御時よりと、末の人の言ひ伝ふべき例を添へむ」と思し、私ざまのかかるはかなき御遊びも、めづらしき筋にせさせたまひて、いみじき盛りの御世なり。 |
しかるべき節会などにつけても、「この帝のご時代から始まったと、末の世の人々が言い伝えるであろうような新例を加えよう」とお思いになり、私的なこのようなちょっとしたお遊びも、珍しい趣向をお凝らしになって、大変な盛りの御代である。 |