第四章 冷泉帝の物語 出生の秘密と譲位ほのめかし
4. 帝、源氏への譲位を思う
本文 |
現代語訳 |
主上は、王命婦に詳しきことは、問はまほしう思し召せど、 |
主上は、王命婦に詳しいことは、お尋ねになりたくお思いになったが、 |
「今さらに、しか忍びたまひけむこと知りにけりと、かの人にも思はれじ。ただ、大臣にいかでほのめかし問ひきこえて、先々のかかる事の例はありけりやと問ひ聞かむ」 |
「今さら、そのようにお隠しになっていらっしゃったことを知ってしまったと、あの人にも思われまい。ただ、大臣に何とかそれとなくお尋ね申し上げて、昔にもこのような例はあったろうかと聞いてみたい」 |
とぞ思せど、さらについでもなければ、いよいよ御学問をせさせたまひつつ、さまざまの書どもを御覧ずるに、 |
とお思いになるが、まったくその機会もないので、ますます御学問をあそばしては、さまざまの書籍を御覧になるのだが、 |
「唐土には、現はれても忍びても、乱りがはしき事いと多かりけり。日本には、さらに御覧じ得るところなし。たとひあらむにても、かやうに忍びたらむことをば、いかでか伝へ知るやうのあらむとする。一世の源氏、また納言、大臣になりて後に、さらに親王にもなり、位にも即きたまひつるも、あまたの例ありけり。人柄のかしこきにことよせて、さもや譲りきこえまし」 |
「唐土には、公然となったのもまた内密のも、血統の乱れている例がとても多くあった。日本には、まったく御覧になっても見つからない。たといあったとしても、このように内密のことを、どうして伝え知る方法があるというのか。一世の源氏、また納言、大臣となって後に、さらに親王にもなり、皇位にもおつきになったのも、多数の例があったのであった。人柄のすぐれたことにかこつけて、そのようにお譲り申し上げようか」 |
など、よろづにぞ思しける。 |
などと、いろいろお考えになったのであった。 |