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薄雲

第五章 光る源氏の物語 春秋優劣論と六条院造営の計画

1. 斎宮女御、二条院に里下がり  

 

本文

現代語訳

 斎宮の女御は、思ししもしるき御後見にて、やむごとなき御おぼえなり。御用意、ありさまなども、思ふさまにあらまほしう見えたまへれば、かたじけなきものにもてかしづききこえたまへり。

 斎宮の女御は、ご期待どおりのご後見役で、たいそうな御寵愛である。お心づかい、態度なども、思うとおりに申し分なくお見えになるので、もったいない方と大切にお世話申し上げなさっていた。

 秋のころ、二条院にまかでたまへり。寝殿の御しつらひ、いとど輝くばかりしたまひて、今はむげの親ざまにもてなして、扱ひきこえたまふ。

 秋ごろに、二条院に里下がりなさった。寝殿のご設備、いっそう輝くほどになさって、今ではまったくの実の親のような態度で、お世話申し上げていらっしゃる。

 秋の雨いと静かに降りて、御前の前栽の色々乱れたる露のしげさに、いにしへのことどもかき続け思し出でられて、御袖も濡れつつ、女御の御方に渡りたまへり。こまやかなる鈍色の御直衣姿にて、世の中の騒がしきなどことつけたまひて、やがて御精進なれば、数珠ひき隠して、さまよくもてなしたまへる、尽きせずなまめかしき御ありさまにて、御簾の内に入りたまひぬ。

 秋の雨がとても静かに降って、お庭先の前栽が色とりどりに乱れている露がいっぱい置いているので、昔のことがらがそれからそれへと自然と続けて思い出されて、お袖も濡らし濡らして、女御の御方にお出向きになった。色の濃い鈍色のお直衣姿で、世の中が平穏でないのを口実になさって、そのまま御精進なので、数珠を袖に隠して、体裁よく振る舞っていらっしゃるのが、限りなく優美なご様子で、御簾の中にお入りになった。



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