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朝顔

第二章 朝顔姫君の物語 老いてなお旧りせぬ好色心

2. 宮邸に到着して門を入る

 

本文

現代語訳

 宮には、北面の人しげき方なる御門は、入りたまはむも軽々しければ、西なるがことことしきを、人入れさせたまひて、宮の御方に御消息あれば、「今日しも渡りたまはじ」と思しけるを、驚きて開けさせたまふ。

 宮邸では、北面にある人が多く出入りするご門は、お入りになるのも軽率なようなので、西にあるのが重々しい正門なので、供人を入れさせなさって、宮の御方にご案内を乞うと、「今日はまさかお越しになるまい」とお思いでいたので、驚いて門を開けさせなさる。

 御門守、寒げなるけはひ、うすすき出で来て、とみにもえ開けやらず。これより他の男はたなきなるべし。ごほごほと引きて、

 御門番が、寒そうな様子で、あわてて出てきて、すぐには開けられない。この人以外の男性はいないのであろう。ごろごろと引いて、

 「錠のいといたく銹びにければ、開かず」

 「錠がひどく錆びついてしまっているので、開かない」

 と愁ふるを、あはれと聞こし召す。

 と困っているのを、しみじみとお聞きになる。

 「昨日今日と思すほどに、三年のあなたにもなりにける世かな。かかるを見つつ、かりそめの宿りをえ思ひ捨てず、木草の色にも心を移すよ」と、思し知らるる。口ずさびに、

 「昨日今日のこととお思いになっていたうちに、はや三年も昔になってしまった世の中だ。このような世を見ながら、仮の宿を捨てることもできず、木や草の花にも心をときめかせるとは」と、つくづくと感じられる。口ずさみに、

 「いつのまに蓬がもととむすぼほれ

   雪降る里と荒れし垣根ぞ」

 「いつの間にこの邸は蓬がおい茂り

   雪に埋もれたふる里となってしまったのだろう」

 やや久しう、ひこしらひ開けて、入りたまふ。

 やや暫くして、無理やり引っ張り開けて、お入りになる。



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