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乙女

第二章 夕霧の物語 光る源氏の子息教育の物語

4. 夕霧の勉学生活

 

本文

現代語訳

 うち続き、入学といふことせさせたまひて、やがて、この院のうちに御曹司作りて、まめやかに才深き師に預けきこえたまひてぞ、学問せさせたてまつりたまひける。

 引き続いて、入学の礼ということをおさせになって、そのまま、この院の中にお部屋を設けて、本当に造詣の深い先生にお預け申されて、学問をおさせ申し上げなさった。

 大宮の御もとにも、をさをさ参うでたまはず。夜昼うつくしみて、なほ稚児のやうにのみもてなしきこえたまへれば、かしこにては、えもの習ひたまはじとて、静かなる所に籠めたてまつりたまへるなりけり。

 大宮のところにも、めったにお出かけにならない。昼夜かわいがりなさって、いつまでも子供のようにばかりお扱い申していらっしゃるので、あちらでは、勉強もおできになれまいと考えて、静かな場所にお閉じこめ申し上げなさったのであった。

 「一月に三度ばかりを参りたまへ」

 「一月に三日ぐらいは参りなさい」

 とぞ、許しきこえたまひける。

 と、お許し申し上げなさのであった。

 つと籠もりゐたまひて、いぶせきままに、殿を、

 じっとお籠もりになって、気持ちの晴れないまま、殿を、

 「つらくもおはしますかな。かく苦しからでも、高き位に昇り、世に用ゐらるる人はなくやはある」

 「ひどい方でいらっしゃるなあ。こんなに苦しまなくても、高い地位に上り、世間に重んじられる人もいるではないか」

 と思ひきこえたまへど、おほかたの人がら、まめやかに、あだめきたるところなくおはすれば、いとよく念じて、

 とお恨み申し上げなさるが、いったい性格が、真面目で、浮ついたところがなくていらっしゃるので、よく我慢して、

 「いかでさるべき書どもとく読み果てて、交じらひもし、世にも出でたらむ」

 「何とかして必要な漢籍類を早く読み終えて、官途にもついて、出世しよう」

 と思ひて、ただ四、五月のうちに、『史記』などいふ書、読み果てたまひてけり。

  と思って、わずか四、五か月のうちに、『史記』などという書物、読み了えておしまいになった。



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