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乙女

第四章 内大臣家の物語 雲居雁の養育をめぐる物語

4. 大宮、夕霧に忠告

 

本文

現代語訳

 かく騒がるらむとも知らで、冠者の君参りたまへり。一夜も人目しげうて、思ふことをもえ聞こえずなりにしかば、常よりもあはれにおぼえたまひければ、夕つ方おはしたるなるべし。

 このように騷がれているとも知らないで、冠者の君が参上なさった。先夜も人目が多くて、思っていることもお申し上げになることができずに終わってしまったので、いつもよりもしみじみと思われたので、夕方いらしたのであろう。

 宮、例は是非知らず、うち笑みて待ちよろこびきこえたまふを、まめだちて物語など聞こえたまふついでに、

 大宮は、いつもは何はさておき、微笑んでお待ち申し上げていらっしゃるのに、まじめなお顔つきでお話など申し上げなさる時に、

 「御ことにより、内大臣の怨じてものしたまひにしかば、いとなむいとほしき。ゆかしげなきことをしも思ひそめたまひて、人にもの思はせたまひつべきが心苦しきこと。かうも聞こえじと思へど、さる心も知りたまはでやと思へばなむ」

 「あなたのお事で、内大臣殿がお恨みになっていらっしゃったので、とてもお気の毒です。人に感心されないことにご執心なさって、わたしに心配かけさせることがつらいのです。こんなことはお耳に入れまいと思いますが、そのようなこともご存知なくてはと思いまして」

 と聞こえたまへば、心にかかれることの筋なれば、ふと思ひ寄りぬ。面赤みて、

 と申し上げなさると、心配していた方面のことなので、すぐに気がついた。顔が赤くなって、

 「何ごとにかはべらむ。静かなる所に籠もりはべりにしのち、ともかくも人に交じる折なければ、恨みたまふべきことはべらじとなむ思ひたまふる」

 「どのようなことでしょうか。静かな所に籠もりまして以来、何かにつけて人と交際する機会もないので、お恨みになることはございますまいと存じておりますが」

 とて、いと恥づかしと思へるけしきを、あはれに心苦しうて、

 と言って、とても恥ずかしがっている様子を、かわいくも気の毒に思って、

 「よし。今よりだに用意したまへ」

 「よろしい。せめて今からはご注意なさい」

 とばかりにて、異事に言ひなしたまうつ。

 とだけおっしゃって、他の話にしておしまいになった。



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