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玉 鬘

第四章 光る源氏の物語 玉鬘を養女とする物語    

8. 源氏、玉鬘の人物に満足する     

 

本文

現代語訳

 めやすくものしたまふを、うれしく思して、上にも語りきこえたまふ。

 無難でいらっしゃったのを、嬉しくお思いになって、紫の上にもご相談申し上げなさる。

 「さる山賤のなかに年経たれば、いかにいとほしげならむとあなづりしを、かへりて心恥づかしきまでなむ見ゆる。かかる者ありと、いかで人に知らせて、兵部卿宮などの、この籬のうち好ましうしたまふ心乱りにしがな。好き者どもの、いとうるはしだちてのみ、このわたりに見ゆるも、かかる者のくさはひのなきほどなり。いたうもてなしてしがな。なほうちあはぬ人のけしき見集めむ」

 「ある田舎に長年住んでいたので、どんなにおかわいそうなと見くびっていたのでしたが、かえってこちらが恥ずかしくなるくらいに見えます。このような姫君がいると、何とか世間の人々に知らせて、兵部卿宮などが、この邸の内に好意を寄せていらっしゃる心を騒がしてみたいものだ。風流人たちが、たいそうまじめな顔ばかりして、ここに見えるのも、こうした話の種になる女性がいないからである。たいそう世話を焼いてみたいものだ。知っては平気ではいられない男たちの心を見てやろう」

 とのたまへば、

 とおっしゃると、

 「あやしの人の親や。まづ人の心励まさむことを先に思すよ。けしからず」

 「変な親ですこと。まっさきに人の心をそそるようなことをお考えになるとは。よくありませんよ」

 とのたまふ。

 とおっしゃる。

 「まことに君をこそ、今の心ならましかば、さやうにもてなして見つべかりけれ。いと無心にしなしてしわざぞかし」

 「ほんとうにあなたをこそ、今のような気持ちだったならば、そのように扱って見たかったのですがね。まったく心ない考えをしてしまったものだ」

 とて、笑ひたまふに、面赤みておはする、いと若くをかしげなり。硯引き寄せたまうて、手習に、

 と言って、お笑いになると、顔を赤くしていらっしゃる、とても若く美しい様子である。硯を引き寄せなさって、手習いに、

 「恋ひわたる身はそれなれど玉かづら

   いかなる筋を尋ね来つらむ

  あはれ」

 「ずっと恋い慕っていたわが身は同じであるが

   その娘はどのような縁でここに来たのであろうか

  ああ、奇縁だ」

 と、やがて独りごちたまへば、「げに、深く思しける人の名残なめり」と見たまふ。

 と、そのまま独り言をおっしゃっるので、「なるほど、深くお愛しになった女の忘れ形見なのだろう」と御覧になる。



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