第二章 玉鬘の物語 初夏の六条院に求婚者たち多く集まる
3. 源氏、玉鬘の女房に教訓す
本文 |
現代語訳 |
右近を召し出でて、 |
右近を呼び出して、 |
「かやうに訪づれきこえむ人をば、人選りして、応へなどはせさせよ。好き好きしうあざれがましき今やうの人の、便ないことし出でなどする、男の咎にしもあらぬことなり。 |
「このように手紙を差し上げる方を、よく人選して、返事などさせなさい。浮気で軽薄な新しがりやな女が、不都合なことをしでかすのは、男の罪とも言えないのだ。 |
我にて思ひしにも、あな情けな、恨めしうもと、その折にこそ、無心なるにや、もしはめざましかるべき際は、けやけうなどもおぼえけれ、わざと深からで、花蝶につけたる便りごとは、心ねたうもてないたる、なかなか心立つやうにもあり。また、さて忘れぬるは、何の咎かはあらむ。 |
自分の経験から言っても、ああ何と薄情な、恨めしいと、その時は、情趣を解さない女なのか、もしくは身の程をわきまえない生意気な女だと思ったが、特に深い思いではなく、花や蝶に寄せての便りには、男を悔しがらせるように返事をしないのは、かえって熱心にさせるものです。また、それで男の方がそのまま忘れてしまうのは、女に何の罪がありましょうか。 |
ものの便りばかりのなほざりごとに、口疾う心得たるも、さらでありぬべかりける、後の難とありぬべきわざなり。すべて、女のものづつみせず、心のままに、もののあはれも知り顔つくり、をかしきことをも見知らむなむ、その積もりあぢきなかるべきを、宮、大将は、おほなおほななほざりごとをうち出でたまふべきにもあらず、またあまりもののほど知らぬやうならむも、御ありさまに違へり。 |
何かの折にふと思いついたようないいかげんな恋文に、すばやく返事をするものと心得ているのも、そうしなくてもよいことで、後々に難を招く種となるものです。総じて、女が遠慮せず、気持ちのままに、ものの情趣を分かったような顔をして、興あることを知っているというのも、その結果よからぬことに終わるものですが、宮や、大将は、見境なくいいかげんなことをおっしゃるような方ではないし、また、あまり情を解さないようなのも、あなたに相応しくないことです。 |
その際より下は、心ざしのおもむきに従ひて、あはれをも分きたまへ。労をも数へたまへ」 |
この方々より下の人には、相手の熱心さの度合に応じて、愛情のほどを判断しなさい。熱意のほどをも考えなさい」 |
など聞こえたまへば、君はうち背きておはする、側目いとをかしげなり。撫子の細長に、このころの花の色なる御小袿、あはひ気近う今めきて、もてなしなども、さはいへど、田舎びたまへりし名残こそ、ただありに、おほどかなる方にのみは見えたまひけれ、人のありさまをも見知りたまふままに、いとさまよう、なよびかに、化粧なども、心してもてつけたまへれば、いとど飽かぬところなく、はなやかにうつくしげなり。他人と見なさむは、いと口惜しかべう思さる。 |
などと申し上げなさるので、姫君は横を向いていらっしゃる、その横顔がとても美しい。撫子の細長に、この季節の花の色の御小袿、色合いが親しみやすく現代的で、物腰などもそうはいっても、田舎くさいところが残っていたころは、ただ素朴で、おっとりとしたふうにばかりお見えであったが、御方々の有様を見てお分かりになっていくにつれて、とても姿つきもよく、しとやかに、化粧なども気をつけてなさっているので、ますます足らないところもなく、はなやかでかわいらしげである。他人の妻とするのは、まことに残念に思わずにはいらっしゃれない。 |