第一章 玉鬘の物語 冷泉帝の大原野行幸
3. 行幸、大原野に到着
本文 |
現代語訳 |
かうて、野におはしまし着きて、御輿とどめ、上達部の平張にもの参り、御装束ども、直衣、狩のよそひなどに改めたまふほどに、六条院より、御酒、御くだものなどたてまつらせたまへり。今日仕うまつりたまふべく、かねて御けしきありけれど、御物忌のよしを奏せさせたまへりけるなりけり。 |
こうして、大原野に御到着あそばして、御輿を止め、上達部の平張の中で食事を召し上がり、御衣装を直衣や、狩衣の装束に改めたりなさる時に、六条院からお酒やお菓子類などが献上された。今日供奉なさる予定だと、前もってご沙汰があったのだが、御物忌の理由を奏上なさったのであった。 |
蔵人の左衛門尉を御使にて、雉一枝たてまつらせたまふ。仰せ言には何とかや、さやうの折のことまねぶに、わづらはしくなむ。 |
蔵人で左衛門尉を御使者として、雉をつけた一枝を献上あそばしなさった。仰せ言にはどのようにあったか、そのような時のことを語るのは、わずらわしいことなので。 |
「雪深き小塩山にたつ雉の 古き跡をも今日は尋ねよ」 |
「雪の深い小塩山に飛び立つ雉のように 古例に従って今日はいらっしゃればよかったのに」 |
太政大臣の、かかる野の行幸に仕うまつりたまへる例などやありけむ。大臣、御使をかしこまりもてなさせたまふ。 |
太政大臣が、このような野の行幸に供奉なさった先例があったのであろうか。大臣は、御使者を恐縮しておもてなしなさる。 |
「小塩山深雪積もれる松原に 今日ばかりなる跡やなからむ」 |
「小塩山に深雪が積もった松原に 今日ほどの盛儀は先例がないでしょう」 |
と、そのころほひ聞きしことの、そばそば思ひ出でらるるは、ひがことにやあらむ。 |
と、その当時に伝え聞いたことで、ところどころ思い出されるのは、聞き間違いがあるかもしれない。 |