第一章 玉鬘の物語 冷泉帝の大原野行幸
4. 源氏、玉鬘に宮仕えを勧める
本文 |
現代語訳 |
またの日、大臣、西の対に、 |
翌日、大臣は、西の対に、 |
「昨日、主上は見たてまつりたまひきや。かのことは、思しなびきぬらむや」 |
「昨日、主上は拝見なさいましたか。あの件は、その気におなりになりましたか」 |
と聞こえたまへり。白き色紙に、いとうちとけたる文、こまかにけしきばみてもあらぬが、をかしきを見たまうて、 |
と申し上げなさった。白い色紙に、たいそう親しげな手紙で、こまごまと色めいたことも含まれてないのが、素晴らしいのを御覧になって、 |
「あいなのことや」 |
「いやなことを」 |
と笑ひたまふものから、「よくも推し量らせたまふものかな」と思す。御返りに、 |
とお笑いなさるものの、「よくも人の心を見抜いていらっしゃるわ」とお思いになる。お返事には、 |
「昨日は、 |
「昨日は、 |
うちきらし朝ぐもりせし行幸には さやかに空の光やは見し |
雪が散らついて朝の間の行幸では はっきりと日の光は見えませんでした |
おぼつかなき御ことどもになむ」 |
はっきりしない御ことばかりで」 |
とあるを、上も見たまふ。 |
とあるのを、紫の上も御覧になる。 |
「ささのことをそそのかししかど、中宮かくておはす、ここながらのおぼえには、便なかるべし。かの大臣に知られても、女御かくてまたさぶらひたまへばなど、思ひ乱るめりし筋なり。若人の、さも馴れ仕うまつらむに、憚る思ひなからむは、主上をほの見たてまつりて、えかけ離れて思ふはあらじ」 |
「しかじかのことを勧めたのですが、中宮がああしていらっしゃるし、わたしの娘という扱いのままでは不都合であろう。あの内大臣に知られても、弘徽殿の女御がまたあのようにいらっしゃるのだからなどと、思い悩んでいたことです。若い女性で、そのように親しくお仕えするのに、何も遠慮する必要がないのは、主上をちらとでも拝見して、宮仕えを考えない者はないでしょう」 |
とのたまへば、 |
とおっしゃると、 |
「あな、うたて。めでたしと見たてまつるとも、心もて宮仕ひ思ひ立たむこそ、いとさし過ぎたる心ならめ」 |
「あら、嫌ですわ。いくら御立派だと拝見しても、自分から進んで宮仕えを考えるなんて、とても出過ぎた考えでしょう」 |
とて、笑ひたまふ。 |
と言って、お笑いになる。 |
「いで、そこにしもぞ、めできこえたまはむ」 |
「さあ、そういうあなたこそ、きっと熱心になることでしょう」 |
などのたまうて、また御返り、 |
などとおっしゃって、改めてお返事に、 |
「あかねさす光は空に曇らぬを などて行幸に目をきらしけむ なほ、思し立て」 |
「日の光は曇りなく輝いていましたのに どうして行幸の日に雪のために目を曇らせたのでしょう やはり、ご決心なさい」 |
など、絶えず勧めたまふ。 |
などと、ひっきりなしにお勧めになる。 |