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真木柱

第三章 鬚黒大将家の物語 北の方、子供たちを連れて実家に帰る    

2. 母君、子供たちを諭す     

 

本文

現代語訳

 君たちは、何心もなくてありきたまふを、母君、皆呼び据ゑたまひて、

 お子様たちは、無心に歩き回っていられるのを、母君、皆を呼んで座らせなさって、

 「みづからは、かく心憂き宿世、今は見果てつれば、この世に跡とむべきにもあらず、ともかくもさすらへなむ。生ひ先遠うて、さすがに、散りぼひたまはむありさまどもの、悲しうもあべいかな。

 「わたしは、このようにつらい運命を、今は見届けてしまったので、この世に生き続ける気もありません。どうなりとなって行くことでしょう。将来があるのに、何といっても、散り散りになって行かれる様子が、悲しいことです。

 姫君は、となるともかうなるとも、おのれに添ひたまへ。なかなか、男君たちは、えさらず参うで通ひ見えたてまつらむに、人の心とどめたまふべくもあらず、はしたなうてこそただよはめ。

 姫君は、どうなるにせよ、わたしについていらっしゃい。かえって、男の子たちは、どうしてもお父様のもとに参上してお会いしなければならないでしょうが、構ってもくださらないでしょうし、どっちつかずの頼りない生活になるでしょう。

 宮のおはせむほど、形のやうに交じらひをすとも、かの大臣たちの御心にかかれる世にて、かく心おくべきわたりぞと、さすがに知られて、人にもなり立たむこと難し。さりとて、山林に引き続きまじらむこと、後の世までいみじきこと」

 父宮が生きていらっしゃるうちは、型通りに宮仕えはしても、あの大臣たちのお心のままの世の中ですから、あの気を許せない一族の者よと、やはり目をつけられて、立身することも難しい。それだからといって、山林に続いて入って出家することも、来世まで大変なこと」

 と泣きたまふに、皆、深き心は思ひ分かねど、うちひそみて泣きおはさうず。

 とお泣きになると、皆、深い事情は分からないが、べそをかいて泣いていらっしゃる。

 「昔物語などを見るにも、世の常の心ざし深き親だに、時に移ろひ、人に従へば、おろかにのみこそなりけれ。まして、形のやうにて、見る前にだに名残なき心は、かかりどころありてももてないたまはじ」

 「昔物語などを見ても、世間並の愛情深い親でさえ、時勢に流され、人の言うままになって、冷たくなって行くものです。まして、形だけの親のようで、見ている前でさえすっかり変わってしまったお心では、頼りになるようなお扱いをなさるまい」

 と、御乳母どもさし集ひて、のたまひ嘆く。

 と、乳母たちも集まって、おっしゃり嘆く。



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