TOP  総目次  源氏物語目次   前へ 次へ
真木柱

第三章 鬚黒大将家の物語 北の方、子供たちを連れて実家に帰る    

6. 鬚黒、男子二人を連れ帰る     

 

本文

現代語訳

 小君達をば車に乗せて、語らひおはす。六条殿には、え率ておはせねば、殿にとどめて、

 幼い男の子たちを車に乗せて、親しく話しながらお帰りになる。六条殿には連れて行くことがおできになれないので、邸に残して、

 「なほ、ここにあれ。来て見むにも心やすかるべく」

 「やはり、ここにいなさい。会いに来るのにも安心して来られるであろうから」

 とのたまふ。うち眺めて、いと心細げに見送りたるさまども、いとあはれなるに、もの思ひ加はりぬる心地すれど、女君の御さまの、見るかひありてめでたきに、ひがひがしき御さまを思ひ比ぶるにも、こよなくて、よろづを慰めたまふ。

 とおっしゃる。悲しみにくれて、たいそう心細そうに見送っていらっしゃる様子、たいそうかわいそうなので、心配の種が増えたような気がするが、女君のご様子が、見がいがあって立派なので、気のふれたご様子と比べると、格段の相違で、すべてお慰めになる。

 うち絶えて訪れもせず、はしたなかりしにことづけ顔なるを、宮には、いみじうめざましがり嘆きたまふ。

 さっぱり途絶えてお便りもせず、体裁の悪かったことを口実にしている風なのを、宮におかれて、ひどく不愉快にお嘆きになる。

 春の上も聞きたまひて、

 春の上もお聞きになって、

 「ここにさへ、恨みらるるゆゑになるが苦しきこと」

 「わたしまで、恨まれる原因になるのがつらいこと」

 と嘆きたまふを、大臣の君、いとほしと思して、

 とお嘆きになるので、大臣の君は、気の毒だとお思いになって、

 「難きことなり。おのが心ひとつにもあらぬ人のゆかりに、内裏にも心おきたるさまに思したなり。兵部卿宮なども、怨じたまふと聞きしを、さいへど、思ひやり深うおはする人にて、聞きあきらめ、恨み解けたまひにたなり。おのづから人の仲らひは、忍ぶることと思へど、隠れなきものなれば、しか思ふべき罪もなし、となむ思ひはべる」

 「難しいことだ。自分の一存だけではどうすることもできない人の関係で、帝におかせられても、こだわりをお持ちになっていらっしゃるようだ。兵部卿宮なども、お恨みになっていらっしゃると聞いたが、そうは言っても、思慮深くいらっしゃる方なので、事情を知って、恨みもお解けになったようだ。自然と、男女の関係は、人目を忍んでいると思っても、隠すことのできないものだから、そんなに苦にするほどの責任もない、と思っております」

 とのたまふ。

 とおっしゃる。



TOP  総目次  源氏物語目次 ページトップへ  前へ 次へ