第二章 光る源氏の物語 明石の姫君の入内
2. 柏木や夕霧たちの雄姿
本文 |
現代語訳 |
近衛司の使は、頭中将なりけり。かの大殿にて、出で立つ所よりぞ人びとは参りたまうける。藤典侍も使なりけり。おぼえことにて、内裏、春宮よりはじめたてまつりて、六条院などよりも、御訪らひども所狭きまで、御心寄せいとめでたし。 |
近衛府の使者は、頭中将であった。あの大殿邸を、出立する所から人々は参上なさったのであった。藤典侍も使者であった。格別に評判がよくて、帝、春宮をお初めとして、六条院などからも、御祝儀の数々が置き所もないほど、ご贔屓ぶりは実に素晴らしい。 |
宰相中将、出で立ちの所にさへ訪らひたまへり。うちとけずあはれを交はしたまふ御仲なれば、かくやむごとなき方に定まりたまひぬるを、ただならずうち思ひけり。 |
宰相中将、出立の所にまでお手紙をお遣わしになった。人目を忍んで恋し合うお間柄なので、このようにれっきとしたお方と結婚がお決まりになったのを、心穏やかならず思っているのであった。 |
「何とかや今日のかざしよかつ見つつ おぼめくまでもなりにけるかな あさまし」 |
「何と言ったのか、今日のこの插頭は、目の前に見ていながら 思い出せなくなるまでになってしまったことよ あきれたことだ」 |
とあるを、折過ぐしたまはぬばかりを、いかが思ひけむ、いともの騒がしく、車に乗るほどなれど、 |
とあるのを、機会をお見逃しにならなかったことだけは、どう思ったことやら、たいそう忙しく、車に乗る時であるが、 |
「かざしてもかつたどらるる草の名は 桂を折りし人や知るらむ 博士ならでは」 |
「頭に插頭してもなおはっきりと思い出せない草の名は 桂を折られたあなたはご存知でしょう 博士でなくては」 |
と聞こえたり。はかなけれど、ねたきいらへと思す。なほ、この内侍にぞ、思ひ離れず、はひまぎれたまふべき。 |
と申し上げた。つまらない歌であるが、悔しい返歌だとお思いになる。やはり、この典侍を、忘れられず、こっそりお会いなさるのであろう。 |