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藤裏葉

第二章 光る源氏の物語 明石の姫君の入内    

1. 紫の上、賀茂の御阿礼に参詣     

 

本文

現代語訳

 かくて、六条院の御いそぎは、二十余日のほどなりけり。対の上、御阿礼に詣うでたまふとて、例の御方々いざなひきこえたまへど、なかなか、さしも引き続きて心やましきを思して、誰も誰もとまりたまひて、ことことしきほどにもあらず、御車二十ばかりして、御前なども、くだくだしき人数多くもあらず、ことそぎたるしも、けはひことなり。

 こうして、六条院の御入内の儀は、四月二十日のころであった。対の上、賀茂の御阿礼に参詣なさろうとして、例によって御方々をお誘い申し上げなさったが、なまじ、そのように後に付いて行くのもおもしろくないのをお思いになって、どなたもどなたもお残りになって、仰々しいほどでなく、お車二十台ほどで、御前駆なども、ごたごたするほどの人数でなく、簡略になさったのが、かえって素晴らしい。

 祭の日の暁に詣うでたまひて、かへさには、物御覧ずべき御桟敷におはします。御方々の女房、おのおの車引き続きて、御前、所占めたるほど、いかめしう、「かれはそれ」と、遠目よりおどろおどろしき御勢ひなり。

 祭の日の早朝に参詣なさって、帰りには、御見物なさる予定のお桟敷席におつきになる。御方々の女房たち、それぞれの車を後から連ねて、御前に車を止めているのは、堂々として、「あれは誰それだ」と、遠くから見ても仰々しいご威勢である。

 大臣は、中宮の御母御息所の、車押し避けられたまへりし折のこと思し出でて、

 大臣は、中宮の御母御息所が、お車の榻を押し折られなさった時のことをお思い出しになって、

 「時により心おごりして、さやうなることなむ、情けなきことなりける。こよなく思ひ消ちたりし人も、嘆き負ふやうにて亡くなりにき」

 「権勢をたのんで心奢りなさって、あのようなことを起こすのは、心ないことであった。全然無視していた方も、その恨みを受けた形で亡くなってしまった」

 と、そのほどはのたまひ消ちて、

 と、そこのあたりは言葉をお濁しになって、

 「残りとまれる人の、中将は、かくただ人にて、わづかになりのぼるめり。宮は並びなき筋にておはするも、思へば、いとこそあはれなれ。すべていと定めなき世なればこそ、何ごとも思ふさまにて、生ける限りの世を過ぐさまほしけれと、残りたまはむ末の世などの、たとしへなき衰へなどをさへ、思ひ憚らるれば」

 「後に残った人で、中将は、このような臣下として、やっと立身した程度だ。宮は並ぶ者のいない地位にいらっしゃるのも、考えてみれば、実にしみじみと感慨深い。何もかもひどく定めない世の中なので、どのようなことも思い通りに、生きている間の世を過ごしたく思うが、後にお残りになる晩年などが、言いようもない衰えなどまでが、心配されるものですから」

 と、うち語らひたまひて、上達部なども御桟敷に参り集ひたまへれば、そなたに出でたまひぬ。

 と、親しくお話しなさって、上達部などもお桟敷に参集なさったので、そちらにお出ましになった。



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