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藤裏葉

第一章 夕霧の物語 雲居雁との筒井筒の恋実る    

8. 夕霧と雲居雁の固い夫婦仲     

 

本文

現代語訳

 灌仏率てたてまつりて、御導師遅く参りければ、日暮れて、御方々より童女出だし、布施など、公ざまに変はらず、心々にしたまへり。御前の作法を移して、君達なども参り集ひて、なかなか、うるはしき御前よりも、あやしう心づかひせられて臆しがちなり。

 灌仏会の誕生仏をお連れ申して来て、御導師が遅く参上したので、日が暮れてから、六条院の御方々から女童たちを使者に立てて、お布施など、宮中の儀式と違わず、思い思いになさった。御前での作法を真似て、公達なども参集して、かえって、格式ばった御前での儀式よりも、妙に気がつかわれて気後れするのである。

 宰相は、静心なく、いよいよ化粧じ、ひきつくろひて出でたまふを、わざとならねど、情けだちたまふ若人は、恨めしと思ふもありけり。年ごろの積もり取り添へて、思ふやうなる御仲らひなめれば、水も漏らむやは。

 宰相は、心落ち着かず、ますますおめかしし、衣服を整えてお出かけになるのを、特別にではないが、多少お情けをおかけの若い女房などは、恨めしいと思っている人もいるのであった。長年の思いが加わって、理想的なご夫婦仲のようなので、水も漏れまい。

 主人の大臣、いとどしき近まさりを、うつくしきものに思して、いみじうもてかしづききこえたまふ。負けぬる方の口惜しさは、なほ思せど、罪も残るまじうぞ、まめやかなる御心ざまなどの、年ごろ異心なくて過ぐしたまへるなどを、ありがたく思し許す。

 主人の内大臣、ますます側に近づくほど美しいのを、かわいらしくお思いになって、たいそう大切にお世話申し上げなさる。負けたことの悔しさは、やはりお持ちだが、こだわりもなく、誠実なご性格などで、長年の間浮気沙汰などもなくてお過ごしになったのを、めったにないことだとお認めになる。

 女御の御ありさまなどよりも、はなやかにめでたくあらまほしければ、北の方、さぶらふ人びとなどは、心よからず思ひ言ふもあれど、何の苦しきことかはあらむ。按察使の北の方なども、かかる方にて、うれしと思ひきこえたまひけり。

 弘徽殿女御のご様子などよりも、派手で立派で理想的だったので、北の方や、仕えている女房などは、おもしろからず思ったり言ったりする者もいるが、何の構うことがあろうか。按察使大納言の北の方なども、このように結婚が決まって、嬉しくお思い申し上げていらっしゃるのであった。


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