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若菜上

第三章 朱雀院の物語 女三の宮の裳着と朱雀院の出家    

2. 秋好中宮、櫛を贈る    

 

本文

現代語訳

 中宮よりも、御装束、櫛の筥、心ことに調ぜさせたまひて、かの昔の御髪上の具、ゆゑあるさまに改め加へて、さすがに元の心ばへも失はず、それと見せて、その日の夕つ方、奉れさせたまふ。宮の権の亮、院の殿上にもさぶらふを御使にて、姫宮の御方に参らすべくのたまはせつれど、かかる言ぞ、中にありける。

 中宮からも、御装束、櫛の箱を、特別にお作らせになって、あの昔の御髪上の道具、趣のあるように手を加えて、それでいて元の感じも失わず、それと分かるようにして、その日の夕方、献上させなさった。中宮の権亮で、院の殿上にも伺候している人を御使者として、姫宮の御方に献上させるべく仰せになったが、このような歌が中にあったのである。

 「さしながら昔を今に伝ふれば

   玉の小櫛ぞ神さびにける」

 「挿したまま昔から今に至りましたので

   玉の小櫛は古くなってしまいました」

 院、御覧じつけて、あはれに思し出でらるることもありけり。あえ物けしうはあらじと譲りきこえたまへるほど、げに、おもだたしき簪なれば、御返りも、昔のあはれをばさしおきて、

 院が、御覧になって、しみじみとお思い出されることがあるのであった。あやかり物として悪くはないとお譲り申し上げなさるだが、なるほど、名誉な櫛なので、お返事も、昔の感情はさておいて、

 「さしつぎに見るものにもが万世を

   黄楊の小櫛の神さぶるまで」

「あなたに引き続いて姫宮の幸福を見たいものです

   千秋万歳を告げる黄楊の小櫛が古くなるまで」

 とぞ祝ひきこえたまへる。

 とお祝い申し上げなさった。



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