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若菜上

第五章 光る源氏の物語 玉鬘、源氏の四十の賀を祝う    

3. 源氏、玉鬘と和歌を唱和    

 

本文

現代語訳

 尚侍の君も、いとよくねびまさり、ものものしきけさへ添ひて、見るかひあるさましたまへり。

 尚侍の君も、すっかり立派に成熟して、貫祿まで加わって、素晴らしいご様子でいらっしゃった。

 「若葉さす野辺の小松を引き連れて

   もとの岩根を祈る今日かな」

 「若葉が芽ぐむ野辺の小松を引き連れて

   育てて下さった元の岩根を祝う今日の子の日ですこと」

 と、せめておとなび聞こえたまふ。沈の折敷四つして、御若菜さまばかり参れり。御土器取りたまひて、

 と、強いて母親らしく申し上げなさる。沈の折敷を四つ用意して、御若菜を御祝儀ばかりに献上なさった。御杯をお取りになって、

 「小松原末の齢に引かれてや

   野辺の若菜も年を摘むべき」

 「小松原の将来のある齢にあやかって

   野辺の若菜も長生きするでしょう」

 など聞こえ交はしたまひて、上達部あまた南の廂に着きたまふ。

 などと詠み交わしなさっているうちに、上達部が大勢南の廂の間にお着きになる。

 式部卿宮は、参りにくく思しけれど、御消息ありけるに、かく親しき御仲らひにて、心あるやうならむも便なくて、日たけてぞ渡りたまへる。

 式部卿宮は、参上しにくくお思いであったが、ご招待があったのに、このように親しい間柄で、わけがあるみたいに取られるのも具合が悪いので、日が高くなってからお渡りになった。

 大将のしたり顔にて、かかる御仲らひに、うけばりてものしたまふも、げに心やましげなるわざなめれど、御孫の君たちは、いづ方につけても、おり立ちて雑役したまふ。籠物四十枝、折櫃物四十。中納言をはじめたてまつりて、さるべき限り取り続きたまへり。御土器くだり、若菜の御羹参る。御前には、沈の懸盤四つ、御坏どもなつかしく、今めきたるほどにせられたり。

 大将が得意顔で、このようなお間柄ゆえ、すべて取り仕切っていらっしゃるのも、いかにも癪に障ることのようであるが、御孫の君たちは、どちらからも縁続きゆえに、骨身を惜しまず、雑用をなさっている。籠物四十枝、折櫃物四十。中納言をおはじめ申して、相当な方々ばかりが、次々に受け取って献上なさっていた。お杯が下されて、若菜の御羹をお召し上がりになる。御前には、沈の懸盤四つ、御坏類も好ましく現代風に作られていた。



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