第二章 光る源氏の物語 住吉参詣
4. 住吉参詣の一行
本文 |
現代語訳 |
上達部も、大臣二所をおきたてまつりては、皆仕うまつりたまふ。舞人は、衛府の次将どもの、容貌きよげに、丈だち等しき限りを選らせたまふ。この選びに入らぬをば恥に、愁へ嘆きたる好き者どもありけり。 |
上達部も、大臣お二方をお除き申しては、皆お供奉申し上げなさる。舞人は、近衛府の中将たちで器量が良くて、背丈の同じ者ばかりをお選びあそばす。この選に漏れたことを恥として、悲しみ嘆いている芸熱心の者たちもいるのだった。 |
陪従も、石清水、賀茂の臨時の祭などに召す人びとの、道々のことにすぐれたる限りを整へさせたまへり。加はりたる二人なむ、近衛府の名高き限りを召したりける。 |
陪従も、岩清水、賀茂の臨時の祭などに召す人々で、諸道に殊に勝れた者ばかりをお揃えになっていらっしゃった。それに加わった二人も、近衛府の世間に名高い者ばかりをお召しになっているのだった。 |
御神楽の方には、いと多く仕うまつれり。内裏、春宮、院の殿上人、方々に分かれて、心寄せ仕うまつる。数も知らず、いろいろに尽くしたる上達部の御馬、鞍、馬副、随身、小舎人童、次々の舎人などまで、整へ飾りたる見物、またなきさまなり。 |
御神楽の方には、たいそう数多くの人々がお供申していた。帝、東宮、院の殿上人、それぞれに分かれて、進んで御用をお勤めになる。その数も知れず、いろいろと善美を尽くした上達部の御馬、鞍、馬添、随身、小舎人童、それ以下の舎人などまで、飾り揃えた見事さは、またとないほどである。 |
女御殿、対の上は、一つに奉りたり。次の御車には、明石の御方、尼君忍びて乗りたまへり。女御の御乳母、心知りにて乗りたり。方々のひとだまひ、上の御方の五つ、女御殿の五つ、明石の御あかれの三つ、目もあやに飾りたる装束、ありさま、言へばさらなり。さるは、 |
女御殿と、対の上は、同じお車にお乗りになっていた。次のお車には、明石の御方と、尼君がこっそりと乗っていらっしゃった。女御の御乳母、事情を知る者として乗っていた。それぞれお供の車は、対の上の御方のが五台、女御殿のが五台、明石のご一族のが三台、目も眩むほど美しく飾り立てた衣装、様子は、言うまでもない。一方では、 |
「尼君をば、同じくは、老の波の皺延ぶばかりに、人めかしくて詣でさせむ」 |
「尼君をば、どうせなら、老の波の皺が延びるように、立派に仕立てて参詣させよう」 |
と、院はのたまひけれど、 |
と、院はおっしゃったが、 |
「このたびは、かくおほかたの響きに立ち交じらむもかたはらいたし。もし思ふやうならむ世の中を待ち出でたらば」 |
「今回は、このような世を挙げての参詣に加わるのも憚られます。もし希望通りの世まで生き永らえていましたら」 |
と、御方はしづめたまひけるを、残りの命うしろめたくて、かつがつものゆかしがりて、慕ひ参りたまふなりけり。さるべきにて、もとよりかく匂ひたまふ御身どもよりも、いみじかりける契り、あらはに思ひ知らるる人の御ありさまなり。 |
と、御方はお抑えなさったが、余命が心配で、もう一方では見たくて、付いていらっしゃったのであった。前世からの因縁で、もともとこのようにお栄えになるお身の上の方々よりも、まことに素晴らしい幸運が、はっきり分かるご様子の方である。 |