御法(みのり)あらすじ
五年許り、どことなく悩み過ごしているので、紫上は、出家を願望したが、源氏は許さなかった。源氏も出家したいが、一人で暮らすのに堪えられないからである。
紫上は、長い間、自分の祈願のために法華経千部を書いた。その法華八講が、三月、紫上の私邸たる二条院で行われた。それは極楽を思わせるような法会であった。今上・春宮・秋好中宮・明石中宮や、源氏関係の方々も参列し、供物も寄せられた。紫上は、万事、これが最後のように心細く感じた。死の予感である。
酷暑のため、紫上に衰弱が加わった。明石中宮が、若宮達と共に見舞った。若宮達の成長も見届けずに終る残念さを、紫上は痛惜して、匂宮には、紅梅や桜の事を遺言した。
紫上の終焉は、八月十四日であった。源氏は、全く自失した。その間に夕霧は、紫上の死顔を見た。〔野分巻〕以来、忘れられなかった、その顔である。夕霧が、葬送の事は万事取扱って、翌十五日に済ませた。
夕霧は、源氏の近くに伺候して慰めた。七日七日の供養も、丁重に行われた。源氏は「千年をも、もろともに」と願ったのに、「定命による別れは悲しい」と、事ごとに紫上を思い出している。心には出家を決意していた。