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竹河

第四章 玉鬘の物語 玉鬘の姫君たちの物語   

1. 正月、男踏歌、冷泉院に回る   

 

本文

現代語訳

 その年かへりて、男踏歌せられけり。殿上の若人どもの中に、物の上手多かるころほひなり。その中にも、すぐれたるを選らせたまひて、この四位の侍従、右の歌頭なり。かの蔵人少将、楽人の数のうちにありけり。

 その年が改まって、男踏歌が行われた。殿上の若人たちの中に、芸達者な者が多いころである。その中でも、優れた人をお選びあそばして、この四位侍従は、右の歌頭である。あの蔵人少将は、楽人の数の中にいた。

 十四日の月のはなやかに曇りなきに、御前より出でて、冷泉院に参る。女御も、この御息所も、上に御局して見たまふ。上達部、親王たち、ひき連れて参りたまふ。

 十四日の月が明るく雲がないので、御前を出発して、冷泉院に参る。女御も、この御息所も、院の御殿に上局を設けて御覧になる。上達部、親王たちが、連れ立って参上なさる。

 「右の大殿、致仕の大殿の族を離れて、きらきらしうきよげなる人はなき世なり」と見ゆ。内裏の御前よりも、この院をばいと恥づかしう、ことに思ひきこえて、「皆人用意を加ふる中にも、蔵人少将は、見たまふらむかし」と思ひやりて、静心なし。

 「右の大殿と、致仕の大殿の一族とを除くと、端正で美しい人はいない世の中だ」と思われる。帝の御前よりも、この院をたいそう気の置ける、格別の所とお思い申し上げて、「すべての人が気をつかう中でも、蔵人少将は、御覧になっていらっしゃるだろう」と想像して、落ち着いていられない。

 匂ひもなく見苦しき綿花も、かざす人がらに見分かれて、様も声も、いとをかしくぞありける。「竹河」謡ひて、御階のもとに踏みよるほど、過ぎにし夜のはかなかりし遊びも思ひ出でられければ、ひがこともしつべくて涙ぐみけり。

 匂いもなく見苦しい綿花も、插頭す人によって見分けられて、態度も声も、実に美しかった。「竹河」を謡って、御階のもとに踏み寄る時、過ぎ去った夜のちょっとした遊びも思い出されたので、調子を間違いそうになって涙ぐむのであった。

 后の宮の御方に参れば、上もそなたに渡らせたまひて御覧ず。月は、夜深くなるままに、昼よりもはしたなう澄み上りて、いかに見たまふらむとのみおぼゆれば、踏む空もなうただよひありきて、盃も、さして一人をのみとがめらるるは、面目なくなむ。

 后の宮の御方に参ると、上もそちらにおいであそばして御覧になる。月は、夜が更けて行くにつれて、昼よりきまりが悪いくらい澄み昇って、どのように御覧になっているだろうとばかり思われるので、踏む所も分からずふらふら歩いて、盃も、名指しで一人だけ責められるのは、面目ないことである。



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