第四章 玉鬘の物語 玉鬘の姫君たちの物語
7. 求婚者たちのその後
本文 |
現代語訳 |
聞こえし人びとの、めやすくなり上りつつ、さてもおはせましに、かたはならぬぞあまたあるや。その中に、源侍従とて、いと若う、ひはづなりと見しは、宰相の中将にて、「匂ふや、薫るや」と、聞きにくくめで騒がるなる、げに、いと人柄重りかに心にくきを、やむごとなき親王たち、大臣の、御女を、心ざしありてのたまふなるなども、聞き入れずなどあるにつけて、「そのかみは、若う心もとなきやうなりしかど、めやすくねびまさりぬべかめり」など、言ひおはさうず。 |
求婚申し上げた人びとで、それぞれ立派に昇進して、結婚なさったしても、不似合いでない方は大勢いることよ。その中で、源侍従と言って、たいそう若く、ひ弱に見えた方は宰相中将になって、「匂うよ、薫よ」と、聞き苦しいほどもてはやされるが、なるほど、人柄も落ち着いて奥ゆかしいので、高貴な親王方、大臣が、娘を結婚させようとおっしゃるのなどにも、聞き入れないなどと聞くにつけても、「あの頃は、若く頼りないようであったが、立派に成人なさったようだ」などと、言っていらっしゃる。 |
少将なりしも、三位中将とか言ひて、おぼえあり。 |
少将であった方も、三位中将とか言って、評判が良い。 |
「容貌さへ、あらまほしかりきや」 |
「器量まで、が立派だった」 |
など、なま心悪ろき仕うまつり人は、うち忍びつつ、 |
などと、意地悪な女房たちは、こっそりと、 |
「うるさげなる御ありさまよりは」 |
「厄介な御様子の所に参るよりは」 |
など言ふもありて、いとほしうぞ見えし。 |
などと言う者もいて、お気の毒に見えた。 |
この中将は、なほ思ひそめし心絶えず、憂くもつらくも思ひつつ、左大臣の御女を得たれど、をさをさ心もとめず、「道の果てなる常陸帯の」と、手習にも言種にもするは、いかに思ふやうのあるにかありけむ。 |
この中将は、依然として思い染めた気持ちがさめず、嫌で辛くも思いながら、左大臣の姫君を得たが、全然愛情を感じず、「道の果てなる常陸帯の」と、手習いにも口ぐせにもしているのは、どのように思ってのことであろうか。 |
御息所、やすげなき世のむつかしさに、里がちになりたまひにけり。尚侍の君、思ひしやうにはあらぬ御ありさまを、口惜しと思す。内裏の君は、なかなか今めかしう心やすげにもてなして、世にもゆゑあり、心にくきおぼえにて、さぶらひたまふ。 |
御息所は、気苦労の多い宮仕えの煩わしさに、里にいることが多くおなりになってしまった。尚侍の君は、思っていたようにならなかったご様子を、残念にお思いになる。内裏の君は、かえって派手に気楽に振る舞って、大変風雅に、奥ゆかしいとの評判を得て、宮仕えなさっている。 |