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竹河

第五章 薫君の物語 人びとの昇進後の物語   

2. 薫、玉鬘と対面しての感想   

 

本文

現代語訳

 「さらにかうまで思すまじきことになむ。かかる御交じらひのやすからぬことは、昔より、さることとなりはべりにけるを、位を去りて、静かにおはしまし、何ごともけざやかならぬ御ありさまとなりにたるに、誰れもうちとけたまへるやうなれど、おのおのうちうちは、いかがいどましくも思すこともなからむ。

 「まったくそんなにまでお考えなることはありません。このような宮仕えの楽でないことは、昔から、そのようなことと決まっておりますが、位を去って、静かにお暮らしでいらっしゃり、どのようなことでも華やかでないご生活となってしまったので、皆が気を許し合っていらっしゃるようですが、それぞれ内心では、どんなに競争心をお持ちになることもないでしょうか。

 人は何の咎と見ぬことも、わが御身にとりては恨めしくなむ、あいなきことに心動かいたまふこと、女御、后の常の御癖なるべし。さばかりの紛れもあらじものとてやは、思し立ちけむ。ただなだらかにもてなして、ご覧じ過ぐすべきことにはべるなり。男の方にて、奏すべきことにもはべらぬことになむ」

 他人は何の過失と思わないことでも、ご自身にとっては恨めしいものでして、つまらないことに心を動かしなさることは、女御や、后のいつものお癖でしょう。それくらいのいざこざもない起こらないものと思って、ご決心なさったのですか。ただ穏やかに振る舞って、お見過ごしなさることでございます。男の者が、申し上げるべきことではございません」

 と、いとすくすくしう申したまへば、

 と、たいそうそっけなく申し上げなさるので、

 「対面のついでに愁へきこえむと、待ちつけたてまつりたるかひなく、あはの御ことわりや」

 「お会いした時に愚痴をこぼそうと、お待ち申していた効もなく、あっさりしたご判断ですこと」

 と、うち笑ひておはする、人の親にて、はかばかしがりたまへるほどよりは、いと若やかにおほどいたる心地す。「御息所も、かやうにぞおはすべかめる。宇治の姫君の心とまりておぼゆるも、かうざまなるけはひのをかしきぞかし」と思ひゐたまへり。

 と、笑っていらっしゃる、人の親として、てきぱきと事を処理していらっしゃる割には、とても若くおっとりとした感じがする。「御息所も、このようなふうでいらっしゃるのだろう。宇治の姫君が心にとまって思われるのも、このような様子に興味惹かれるからだ」と思って座っていらっしゃった。

 尚侍も、このころまかでたまへり。こなたかなた住みたまへるけはひをかしう、おほかたのどやかに、紛るることなき御ありさまどもの、簾の内、心恥づかしうおぼゆれば、心づかひせられて、いとどもてしづめめやすきを、大上は、「近うも見ましかば」と、うち思しけり。

 尚侍の君も、この頃退出なさっていた。こちらとあちらとに住んでいらっしゃる様子は素晴らしく、全体がのんびりと忙しさに、紛れることないご様子で、御簾の内側が、気恥ずかしく感じられるので、自然と気づかいがされて、ますます静かで感じが良いのを、大上は、「近くでお世話するのだったなら」と、お思いになるのであった。



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