第四章 宇治の姉妹の物語 歳末の宇治の姫君たち
2. 薫、歳末に宇治を訪問
本文 |
現代語訳 |
中納言の君、「新しき年は、ふとしもえ訪らひきこえざらむ」と思しておはしたり。雪もいと所狭きに、よろしき人だに見えずなりにたるを、なのめならぬけはひして、軽らかにものしたまへる心ばへの、浅うはあらず思ひ知られたまへば、例よりは見入れて、御座などひきつくろはせたまふ。 |
中納言の君は、「新年は、少しも訪問することができないだろう」とお思いになっていらっしゃった。雪もたいそう多い上に、普通の身分の人でさえ見えなくなってしまったので、並々ならぬ立派な姿をして、気軽に訪ねて来られたお気持ちが、浅からず思い知られなさるので、いつもよりは心をこめて、ご座所などをお設けさせなさる。 |
墨染ならぬ御火桶、奥なる取り出でて、塵かき払ひなどするにつけても、宮の待ち喜びたまひし御けしきなどを、人びとも聞こえ出づ。対面したまふことをば、つつましくのみ思いたれど、思ひ隈なきやうに人の思ひたまへれば、いかがはせむとて、聞こえたまふ。 |
服喪者用でない御火桶を、部屋の奥にあるのを取り出して、塵をかき払いなどするにつけても、父宮がお待ち喜び申し上げていたご様子などを、女房たちもお噂申し上げる。直接お話なさることは、気の引けることとばかりお思いになっていたが、好意を無にするように思っていらっしゃるので、仕方のないことと思って、応対申し上げなさる。 |
うちとくとはなけれど、さきざきよりはすこし言の葉続けて、ものなどのたまへるさま、いとめやすく、心恥づかしげなり。「かやうにてのみは、え過ぐし果つまじ」と思ひなりたまふも、「いとうちつけなる心かな。なほ、移りぬべき世なりけり」と思ひゐたまへり。 |
気を許すというのではないが、以前よりは少し言葉数多く、ものをおっしゃる様子が、たいそうそつがなく、奥ゆかしい感じである。「こうしてばかりは、続けられそうにない」とお思いになるにつけても、「まことにあっさり変わってしまう心だな。やはり、恋心に変わってまう男女の仲なのだな」と思っていらっしゃった。 |