第五章 宇治の姉妹の物語 匂宮、薫らとの恋物語始まる
1. 新年、阿闍梨、姫君たちに山草を贈る
本文 |
現代語訳 |
年替はりぬれば、空のけしきうららかなるに、汀の氷解けたるを、ありがたくもと眺めたまふ。聖の坊より、「雪消えに摘みてはべるなり」とて、沢の芹、蕨などたてまつりたり。斎の御台に参れる。 |
年が変わったので、空の様子がうららかになって、汀の氷が一面に解けているのを、不思議な気持ちで眺めていらっしゃる。聖の僧坊から、「雪の消え間で摘んだものでございます」といって、沢の芹や、蕨などを差し上げた。精進のお膳にして差し上げる。 |
「所につけては、かかる草木のけしきに従ひて、行き交ふ月日のしるしも見ゆるこそ、をかしけれ」 |
「場所柄によって、このような草木の有様に従って、行き交う月日の節目も見えるのは、興趣深いことです」 |
など、人びとの言ふを、「何のをかしきならむ」と聞きたまふ。 |
などと、人びとが言うのを、「何の興趣深いことがあろうか」とお聞きになっている。 |
「君が折る峰の蕨と見ましかば 知られやせまし春のしるしも」 |
「父宮が摘んでくださった峰の蕨でしたら これを春が来たしるしだと知られましょうに」 |
「雪深き汀の小芹誰がために 摘みかはやさむ親なしにして」 |
「雪の深い汀の小芹も誰のために摘んで楽しみましょうか 親のないわたしたちですので」 |
など、はかなきことどもをうち語らひつつ、明け暮らしたまふ。 |
などと、とりとめのないことを語り合いながら、日をお暮らしになる。 |
中納言殿よりも宮よりも、折過ぐさず訪らひきこえたまふ。うるさく何となきこと多かるやうなれば、例の、書き漏らしたるなめり。 |
中納言殿からも宮からも、折々の機会を外さずお見舞い申し上げなさる。厄介で何でもないことが多いようなので、例によって、書き漏らしたようである。 |