第五章 宇治の姉妹の物語 匂宮、薫らとの恋物語始まる
2. 花盛りの頃、匂宮、中の君と和歌を贈答
本文 |
現代語訳 |
花盛りのころ、宮、「かざし」を思し出でて、その折見聞きたまひし君たちなども、 |
花盛りのころ、宮は、「かざし」の和歌を思い出して、その時お供でご一緒した公達なども、 |
「いとゆゑありし親王の御住まひを、またも見ずなりにしこと」 |
「実に趣のあった親王のお住まいを、再び見ないことになりました」 |
など、おほかたのあはれを口々聞こゆるに、いとゆかしう思されけり。 |
などと、世の中一般のはかなさを口々に申し上げるので、たいそう興味深くお思いになるのであった。 |
「つてに見し宿の桜をこの春は 霞隔てず折りてかざさむ」 |
「この前は、事のついでに眺めたあなたの桜を 今年の春は霞を隔てず手折ってかざしたい」 |
と、心をやりてのたまへりけり。「あるまじきことかな」と見たまひながら、いとつれづれなるほどに、見所ある御文の、うはべばかりをもて消たじとて、 |
と、気持ちのままおっしゃるのであった。「とんでもないことだわ」と御覧になりながら、とても所在ない折なので、素晴らしいお手紙の、表面だけでも無にすまいと思って、 |
「いづことか尋ねて折らむ墨染に 霞みこめたる宿の桜を」 |
「どこと尋ねて手折るのでしょう 墨染に霞み籠めているわたしの桜を」 |
なほ、かくさし放ち、つれなき御けしきのみ見ゆれば、まことに心憂しと思しわたる。 |
やはり、このように突き放して、素っ気ないお気持ちばかりが見えるので、ほんとうに恨めしいとお思い続けていらっしゃる。 |