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椎本

第五章 宇治の姉妹の物語 匂宮、薫らとの恋物語始まる   

3. その後の匂宮と薫   

 

本文

現代語訳

 御心にあまりたまひては、ただ中納言を、とざまかうざまに責め恨みきこえたまへば、をかしと思ひながら、いとうけばりたる後見顔にうちいらへきこえて、あだめいたる御心ざまをも見あらはす時々は、

 お胸に抑えきれなくなって、ただ中納言を、あれやこれやとお責め申し上げなさるので、おもしろいと思いながら、いかにも誰憚らない後見役の顔をしてお返事申し上げて、好色っぽいお心が表れたりする時々には、

 「いかでか、かからむには」

 「どうしてか、このようなお心では」

など、申したまへば、宮も御心づかひしたまふべし。

 など、お咎め申し上げなさるので、宮もお気をつけなさるのであろう。

 「心にかなふあたりを、まだ見つけぬほどぞや」とのたまふ。

 「気に入った相手が、まだ見つからない間のことです」とおっしゃる。

 大殿の六の君を思し入れぬこと、なま恨めしげに、大臣も思したりけり。されど、

 大殿の六の君をお気にかけないことは、何となく恨めしそうに、大臣もお思いになっているのであった。けれど、

 「ゆかしげなき仲らひなるうちにも、大臣のことことしくわづらはしくて、何ごとの紛れをも見とがめられむがむつかしき」

 「珍しくない間柄の仲でも、大臣が仰々しく厄介で、どのような浮気事でも咎められそうなのがうっとうしくて」

 と、下にはのたまひて、すまひたまふ。

 と、内々ではおっしゃって、嫌がっていらっしゃる。

 その年、三条宮焼けて、入道宮も、六条院に移ろひたまひ、何くれともの騒がしきに紛れて、宇治のわたりを久しう訪れきこえたまはず。まめやかなる人の御心は、またいと異なりければ、いとのどかに、「おのがものとはうち頼みながら、女の心ゆるびたまはざらむ限りは、あざればみ情けなきさまに見えじ」と思ひつつ、「昔の御心忘れぬ方を、深く見知りたまへ」と思す。

 その年、三条宮が焼けて、入道宮も、六条院にお移りになり、何かと騒々しい事に紛れて、宇治の辺りを久しくご訪問申し上げなさらない。生真面目な方のご性格には、また普通の人と違っていたので、たいそうのんびりと、「自分の物と期待しながらも、女の心が打ち解けないうちは、不謹慎な無体な振る舞いはしまい」と思いながら、「故宮とのお約束を忘れていないことを、深く知っていただきたい」とお思いになっている。



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