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第七章 大君の物語 大君の死と薫の悲嘆   

3. 七日毎の法事と薫の悲嘆   

 

本文

現代語訳

 はかなくて日ごろは過ぎゆく。七日七日の事ども、いと尊くせさせたまひつつ、おろかならず孝じたまへど、限りあれば、御衣の色の変らぬを、かの御方の心寄せわきたりし人びとの、いと黒く着替へたるを、ほの見たまふも、

 とりとめもなく幾日も過ぎてゆく。七日毎の法事も、たいそう尊くおさせになっては、心をこめて供養なさるが、規則があるので、お召し物の色の変わらないのを、あの御方を特に慕っていた女房たちが、たいそう黒く着替えているのを、ちらっと御覧になるにつけても、

 「くれなゐに落つる涙もかひなきは

   形見の色を染めぬなりけり」

 「紅色に落ちる涙が何にもならないのは

   形見の喪服の色を染めないことだ」

 聴し色の氷解けぬかと見ゆるを、いとど濡らし添へつつ眺めたまふさま、いとなまめかしくきよげなり。人びと覗きつつ見たてまつりて、

 許し色の氷が解けないかと見えるのを、ますます濡らし加えながら物思いに沈んでいらっしゃるお姿は、たいそう艶っぽく美しい。女房たちが覗きながら拝見して、

 「言ふかひなき御ことをばさるものにて、この殿のかくならひたてまつりて、今はとよそに思ひきこえむこそ、あたらしく口惜しけれ」

 「亡くなってしまったお方のことはしかたないとして、この殿がこのようにお親しみ申されて、これからは他人とお思い申し上げるのは、惜しく残念なことだわ」

「思ひの外なる御宿世にもおはしけるかな。かく深き御心のほどを、かたがたに背かせたまへるよ」

 「意外なご運勢でいらっしゃったわ。こんなに深いお志を、どちらもお添いになれなかったとは」

 と泣きあへり。

 と言って、泣きあっている。

 この御方には、

 この御方には、

 「昔の御形見に、今は何ごとも聞こえ、承らむとなむ思ひたまふる。疎々しく思し隔つな」

 「亡くなった方のお形見として、今は何でも申し上げ、承りたいと存じております。よそよそしくお思いなさいませんように」

 と聞こえたまへど、「よろづのこと憂き身なりけり」と、もののみつつましくて、まだ対面してものなど聞こえたまはず。

 と申し上げなさるが、「万事が嫌な身の上だ」と、何もかも気後れして、まだお会いしてお話など申し上げなさらない。

 「この君は、けざやかなるかたに、いますこし子めき、気高くおはするものから、なつかしく匂ひある心ざまぞ、劣りたまへりける」

 「この姫君は、はきはきとした方で、もう少し子供っぽく、気高くいらっしゃる一方で、親しみがありうるおいのある人柄という点では劣っていらっしゃる」

 と、事に触れておぼゆ。

 と、何かにつけて思われる。


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