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早蕨

第二章 中君の物語 匂宮との京での結婚生活が始まる   

5. 匂宮、中君と薫に疑心を抱く   

 

本文

現代語訳

 人びとも、

 女房たちも、

 「世の常に、ことことしくなもてなしきこえさせたまひそ。限りなき御心のほどをば、今しもこそ、見たてまつり知らせたまふさまをも、見えたてまつらせたまふべけれ」

 「世間一般の人のように、仰々しくお扱い申し上げなさいますな。この上ないご好意を、今こそ、拝見しご存知あそばしている様子を、お見せ申し上げる時です」

 など聞こゆれど、人伝てならず、ふとさし出で聞こえむことの、なほつつましきを、やすらひたまふほどに、宮、出でたまはむとて、御まかり申しに渡りたまへり。いときよらにひきつくろひ化粧じたまひて、見るかひある御さまなり。

 などと申し上げるが、人を介してではなく、直にお話し申し上げることは、やはり気が引けるので、ためらっていらっしゃるところに、宮が、お出かけになろうとして、お暇乞いの挨拶にお渡りになった。たいそう美しく身づくろいし化粧なさって、見栄えのするお姿である。

 中納言はこなたになりけり、と見たまひて、

 中納言はこちらに来ているのであった、と御覧になって、

 「などか、むげにさし放ちては、出だし据ゑたまへる。御あたりには、あまりあやしと思ふまで、うしろやすかりし心寄せを。わがためはをこがましきこともや、とおぼゆれど、さすがにむげに隔て多からむは、罪もこそ得れ。近やかにて、昔物語もうち語らひたまへかし」

 「どうして、無愛想に遠ざけて、外にお座らせになっているのか。あなたには、あまりにどうかと思われるまでに、行き届いたお世話ぶりでしたのに。自分には愚かしいこともあろうか、と心配されますが、そうはいってもまったく他人行儀なのも、罰が当たろう。近い所で、昔話を語り合いなさい」

 など、聞こえたまふものから、

 などと、申し上げなさるものの、

 「さはありとも、あまり心ゆるびせむも、またいかにぞや。疑はしき下の心にぞあるや」

 「そうはいっても、あまり気を許すのも、またどんなものかしら。疑わしい下心があるかもしれない」

 と、うち返しのたまへば、一方ならずわづらはしけれど、わが御心にも、あはれ深く思ひ知られにし人の御心を、今しもおろかなるべきならねば、「かの人も思ひのたまふめるやうに、いにしへの御代はりとなずらへきこえて、かう思ひ知りけりと、見えたてまつるふしもあらばや」とは思せど、さすがに、とかくやと、かたがたにやすからず聞こえなしたまへば、苦しう思されけり。

 と、言い直しなさるので、どちらの方に対しても厄介だけれども、自分の気持ちも、しみじみありがたく思われた方のお心を、今さらよそよそしくすべきことでもないので、「あの方が思いもしおっしゃりもするように、故姉君の身代わりとお思い申して、このように分かりましたと、お表し申し上げる機会があったら」とはお思いになるが、やはり、何やかやと、さまざまに心安からぬことを申し上げなさるので、つらく思われなさるのだった。



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